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契約・規約チェック

ECサイトの利用規約の作成方法とは?|知っておきたい注意点をECに強い弁護士が解説

2020年4月施行の民法改正によって定型約款制度が新設されてから、4年が経過しました。それまで明確な法規定のなかった利用規約ですが、定型約款制度新設により、改正民法に対応した適切な利用規約を定めておくことが重要なポイントとなりました。一方、消費者契約法では、不当条項規制として、一定の消費者契約の条項を無効とするルールがありますが、2023年6月施行の同法改正において、無効とされる場合が拡大されています。

これからECサイトをオープンしようとする事業者の方の中には、利用規約をどうやって作成しようか、検討されている方もおられるかもしれません。また既にECサイトを運営中の事業者の方も、今一度自社の利用規約を見直してみましょう。法令に則った内容であることを再確認するとともに、自社のサービス内容の変更等が反映されているかのチェックも行いましょう。この記事では、ECサイトの利用規約とは何か?といった基本的事項から、利用規約が必要な理由、具体的な必要項目と作成方法まで、詳しく解説していきます。

ECサイトの利用規約とは?

利用規約とは、利用者(ユーザー)がサービスを利用するにあたって遵守しなければならない内容などを、サービスを提供する事業者が定めたものです。実は、この利用規約は、法令上必ずしも必要というわけではありません。しかし特にECサイトでは、サービスの利用を開始する前に利用規約を画面に表示し、利用者に同意を求めるのが一般的であり、適切な利用規約を用いることで事業者にとっては多くのメリットがあります。

利用規約は契約?約款?

「約款」とは、事業者によって、同種かつ多数の取引のためにあらかじめ定型化された「契約条件」のことです。ECサイト上での取引は、不特定多数の当事者との取引となりますので、個々の「契約」を効率的に締結するため、多くの場合で「約款」が用いられます。一般的な契約では各相手方とそれぞれに話し合って契約条項を決めますが、約款は先に契約条項が準備されていて、相手方が同意するだけで契約の内容となるため、スピーディに契約が進みます。
ECサイトの利用規約は、この「約款」と同義なものとして、事業者において作成されることがほとんどです。ただし、どんな利用規約(約款)でも、事業者・利用者間で合意した「契約内容」として認められるわけではありません。

利用規約が「契約内容」として認められるためには

2020年の民法改正で、定型約款に関する規定が新設され、定型約款に関するルールが整備されることとなりました(民法548条の2)。
すなわち、定型取引を行う合意をした者は、下記の要件①②のいずれかを満たせば、定型約款の個別の条項についても合意したとみなされることとなりました。(みなし合意)
①定型約款を契約の内容とすることに合意している
②定型約款の準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とすることを相手方に表示していた

ただし、約款の内容に法律的な問題がある場合は合意をしなかったものとみなされます。
つまり、ECサイトの利用規約が個々の取引において事業者・利用者間で合意した「契約内容」として扱われる(「契約書」と同様の機能を持たせる)ためには、民法の定型約款のルールや、その他関係法令に則った内容でなければならず、さらに適切な方法で利用者の同意を得ることが必要ということになります。

ECサイトに利用規約を定めるメリット

前項で触れたように、民法の規定に則した適切な利用規約を用いることで、不特定多数の利用者との個々の取引において個別に内容を検討して合意することなく、「契約内容」とすることができる点が重要なポイントです。
取引や利用者毎に個別の交渉が必要ないため交渉時間・コストが削減できることや、個々の異なる内容の契約となるとそれぞれに管理が必要となりますが、利用規約を一律に契約内容とすることで管理費用を大幅にカットできることが、事業者のビジネス上の観点からのメリットと言えるでしょう。
さらに、事業者の法律的観点からは具体的に次のようなメリットがあるでしょう。

①利用者とのトラブルを未然に予防する
②利用者とのトラブルを早期に解決する
③万一裁判になったとき、サービスを提供する事業者が責任を負わないようにする

ECサイト利用におけるルールをあらかじめ明確にしておき、さらにこれに同意する手続きを経ることで、利用者において、ルールを把握するとともに、ルールに則ってサービスを利用しなくては、という意識が生じることにより、トラブルを未然に防ぐ効果が期待されます。

次に、利用者が迷惑行為・問題行動(規約違反)をしたり、利用者からクレームを受けるなどのトラブルとなってしまった場合、事前に明文化されたルールが存在することで、このルールに沿って問題を解決することが可能ですので、スムーズな問題解決につながります。

さらに、利用規約(契約内容)によって利用者、事業者双方の権利義務が明確化されていますので、万一トラブルが裁判にまで発展してしまった場合でも、司法の判断によって思わぬ責任を負わされるリスクを回避することができます。(例えば、利用規約における事業者の免責事項が適用されて損害賠償を免れるなど。)

ECサイトの利用規約に必要な項目

前述のとおり、ECサイトにおいて、利用規約を適切に定めることが重要ですが、本項ではECサイトの利用規約で必要な項目の例について具体的に紹介します。

項目 内容
目的 利用規約を法的効力をもつ「契約」として取り扱うため、以下を明記
・サービスの利用には利用規約への同意が必要であること
・同意した規約内容が契約内容として取り扱われること
定義 利用規約で使用する用語を正確に定義
サービスの内容 利用者に対して提供するサービスの内容を、可能な限り具体的に記載
会員(ユーザー)登録 ・サービスを利用するためには会員登録が必要である旨を明記
・事業者が会員登録を拒絶できる事由を明記
売買契約 売買契約が成立するタイミングを明記
支払・決済 支払方法及び支払いのタイミングを明確に記載
遵守・禁止事項 ・利用者が守るべきこと、してはならないことをできる限り具体的に記載
・規約違反があった利用者に対してどのような措置をとる可能性があるのかを明記
商品の返品・交換 どのような場合に返品、交換、返金が可能なのかを明記
返品特約については、利用規約に定める以外でも、「特定商取引法」に定められたルールに注意(特定商取引法上に基づく表示として別途記載が必要、ウェブ上の申込画面で告知を行わなくてはならないなど)。
権利の帰属 サービスサイト内の文章や画像などのコンテンツ、そのほか利用方法を限定するダウンロード配布コンテンツなどがある場合にはそれらも含めて、知的財産権等の帰属を明記
利用規約の変更 利用規約が定型約款と認められるためには、民法の定型約款の変更に関する規定の内容に従った内容にする
サービス提供の停止・終了 提供サービスの中止や変更、終了に関して事業者側の権利や通知義務、およびその際の料金の取扱いなどを明記
損害賠償、免責 利用者に損害を与える事態がサービス内で起きてしまった場合の損害賠償有無や範囲、および提供情報の正確性や完全性、リスクなどに関しての免責事項などを明記
反社会的勢力の排除 コンプライアンスの観点から反社条項についても定めておく
合意管轄裁判所 サービスの利用にあたって事業者と利用者の間に紛争が起きた場合に、どの裁判所が管轄となるか(第一審の専属的合意管轄裁判所)を明記

 

ECサイトの利用規約の作成方法

利用規約作成方法3例

それでは、前項で挙げた項目など、必要情報を網羅した適切な内容の利用規約を、どのように作成したらよいでしょうか。一般的には、下記3つの方法が考えられます。

①雛形を参考に作成
②他社サイトの利用規約を参考に作成
③弁護士等の専門家や、利用規約作成代行会社に作成を依頼する

①検索サイトで「利用規約」「雛形」などで検索をすれば、利用規約の雛形が容易に見つけられるでしょう。②また、ほとんどのECサイトで利用規約を掲載していますから、それら競合他社の利用規約を参考に作成することができます。①②の方法であれば、③に比べてコストを抑えて利用規約を作成することができるでしょう。

雛形や他社の利用規約をそのまま流用してはいけません

ただし、雛形や他社の利用規約をそのまま流用することは避けましょう。著作権侵害の問題と同時に、必要項目が不足している可能性や、自社サイトの運用形態に合わせたものでないため運用していくなかで不備が生じる可能性があるためです。
雛形は、あくまでも必要最低限の項目が載っているサンプルにすぎません。また、類似サービスを提供する事業者であっても、契約条件等がまったく同一であるわけではありません。自社が提供するサービスに合った利用規約を作成することが重要となります。

定型約款(利用規約)の変更手続について明確に定めましょう

さらに、利用規約を「契約内容」として扱うためには、定型約款に関する民法の規定に即した内容とする必要があります。特に、利用規約の変更手続きについての項目は、定型約款の規定を意識して策定しましょう。

民法・消費者契約法に基づく条項の無効に注意しましょう

また、損害賠償やキャンセル料などの項目で消費者を一方的に害する規約内容にしてしまうと、民法の定型約款の規定に加えて、消費者契約法によっても当該条項は無効とされてしまうので注意が必要です。さらに消費者契約法改正で、無効とされる範囲が拡大されましたので、利用規約について再度見直す必要があるでしょう。

民法(548条の2 第2項)「定型約款」同意がなかったとみなされる場合

・不当条項:責任の有無を問わずいかなる場合でも事業者は一切損害賠償をしないという内容や、キャンセル時に利用者が負担する違約金の額が不当に高額である場合など、利用者が一方的に不利益となる条項は、不当条項とされ、当該条項については利用者の同意がなかったものとみなされます。
・不意打ち条項:たとえば、サービスとは関連性のない商品やサービスを通常予期しない形で抱き合わせで販売するような内容を含む条項は、不意打ち条項とされ、当該条項は利用者の同意がなかったものとみなされます。

消費者契約法(第8条~10条)

消費者契約法では、事業者の損害賠償責任を制限する条項について、一定のものについて「無効」としています。例えば、「利用者に損害が発生しても、当社は一切の責任を負わない」「いかなる場合でも、当社の損害賠償額の限度は10万円とします」といった、消費者の権利を一方的に害する内容は改正前も無効とされてきました。
そのような中で、「“法律上許容される場合において”、当社の損害賠償額の限度は10万円とします」というように、損害賠償責任を限定する範囲をあえて不明確にすることで消費者からの責任追及を回避する事例が問題とされていました。「法律上許容される場合において(※)」という文言があることで、改正前の消費者契約法においては違反とはならず、当該条項は無効とはなりませんでしたが、消費者にとってみると、どういった場合に法律上許容されるのかどうか、つまり事業者の責任が免除されるのかの判断がつかず、事業者に対する損害賠償請求を躊躇してしまうケースが考えられます。
※事業者の故意又は重過失による損害賠償の一部を免除する条項を無効としています(法第8条第1項第2号,第4号)

消費者契約法改正(第8条3項)「サルベージ条項規制」の新設

そこで、2023年6月施行の消費者契約法改正において、8条3項の規定が追加されました。いわゆる「サルベージ条項規制」です。端的にいえば、消費者契約において、事業者の損害賠償責任の一部を免除しようとする条項で「事業者側に軽過失(重過失ではない過失)がある場面」についてのみ適用されることを明らかにしていないときには無効となることを定めたものです。
この規定により、上記の例のような「“法律上許容される場合において”、当社の損害賠償額の限度は10万円とします」といった条項は無効と解されることとなります。無効とされないためには、「賠償額は 10 万円を限度とします。ただし、当社の故意又は重過失による場合を除きます」というように規定することが必要となります。

まとめ

ECサイトにおいて、有効な利用規約を適切に作成することは、事業を円滑に運営し、トラブルを防止するために大変重要です。また適切な内容であっても、法令上認められた同意方法で同意を得なければ、同意がなかったとみなされてしまう場合があるため注意が必要です。さらに、法令改正やサービス内容の変更に伴って利用規約を改訂する際には、民法の定型約款の規定に則した適切な方法で変更手続きを行う必要があります。自社において雛形や他社の利用規約を参考に利用規約を作成し、その後も同意取得、変更等の運用を適切に行っていくためには、改正も含め法令を正確に把握し、フォローしていくことをお勧めします。個別の疑問点や、利用規約作成のご依頼の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

下記のコラムも併せてご参考になさってください。
【民法改正対応】ECサイト運営に重要な利用規約は、一方的に変更しても問題ないのか?_2020.05.12
https://ec-lawyer.com/306/
【改正民法対応】利用規約の同意のとり方と設置方法_2022.03.24
https://ec-lawyer.com/627/
利用規約に関する民法の新ルール、「定型約款」とは?_2023.06.30
https://ec-lawyer.com/2264/
その利用規約は有効?消費者契約法と有効な利用規約の作り方_2022.03.14(2023年改正前の内容です)
https://ec-lawyer.com/620/

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番オススメなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。多数のEC企業様が、サービス設計や利用規約・契約書レビューなどにあたり当事務所を活用されていますので、いつでもご相談ください。

※本稿の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。EC企業からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行っている。
また、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」