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契約・規約チェック

【民法改正対応】ECサイト運営に重要な利用規約は、一方的に変更しても問題ないのか?

ECサイト運営においてユーザーとのトラブルを回避するためには、それぞれのサイトの運用形態に合わせた利用規約の作成が必要不可欠です。ECサイトの利用規約は事前に内容をしっかりと吟味して決定することも大切ですが、将来的に変更する可能性があることを前提としておくことも大切です。同時に、運用をしていく上で必要に応じて常にそれが最善の状態かどうかをチェックし、リスクや抜け穴がないかを確認していくことも重要になります。

では、利用規約を変更した場合、ユーザーは法律的にそれに従う必要があるのでしょうか?企業側として、利用規約の変更にあたり注意すべきことはあるのでしょうか?この記事では2020年4月からの改正民法も踏まえ、具体的に解説していきます。

ECサイトにおける利用規約の基本

ECサイトの利用規約には、企業の方針やサイト形態によってさまざまなものがあります。しかし、その目的はどれも同じです。利用規約は、多数のユーザーと企業の間で結ぶ取り決めであり、契約としての役割があります。一般的に契約と言えば、1人の相手方と結ぶものですが、数多くいるユーザー1人1人との間で個別に契約書を作成することは、現実的ではありません。それを解決してくれるのが利用規約です。

利用規約では、ユーザーと企業との間の基本的な取り決めを行います。ECサイトを利用するにあたりユーザーと企業がやりとりをする内容、具体的には会員登録や売買契約、注文や返品・キャンセルなどに関する内容について規定します。それ以外に、利用規約の大切な役割は、商品・サービスの不備や過失、ユーザーとのやり取りの中で何らかの問題が発生した際の対応に関してあらかじめ想定し、対処法を記載しておくことです。問題が発生するのは致し方ないことですが、万が一問題が発生したとしても、それが大きな訴訟などにつながらないために、あらゆる事態を想定し漏れがないように作成する必要があります。

そして、その作成した利用規約を有効なものとするためには、ユーザーが利用規約に同意後に利用を開始できるようにする必要があります。具体的な方法としては、下記のような点が重要です。

・サイト上に事前に利用規約を掲載しておく
・利用規約は、申込(または会員登録)より前に確認できる場所に配置する
・「利用規約に同意しました」チェックボックスや「利用規約に同意する」ボタン、「利用規約に同意して申込む」ボタンなどを利用して、確実に同意した上で申込や注文(または会員登録)に進めるようにする
・利用規約に最後まで目を通してからでないと、次に進めないようにする(利用規約の一番下に次に進むボタンを設置する、別リンクで利用規約を開いてからでないと次に進めないようにするなど)

このような準備を行い、何か問題が発生した時にも、ユーザーにとって「利用規約など見ていない」「そのようなことは知らなかった」ということのないようにしておくことが大切です。

ECサイトで利用規約を変更する必要があるケース

利用規約は、その時点で最善と思われるものを作成するのは当然のことですが、利用規約を変更する必要があるのは、どのようなケースでしょうか。?

まずは、サイト運営をしていく中で、実際に何らかの問題が発生した場合です。その問題が利用規約内で規定されていないもので、それにより何らかの損害を被った場合、再び同じことにならないために利用規約を加筆・または修正する必要があります。問題が発生した場合というのは、自社に限りません。同業他社に何らかの問題が発生したケースも、そのケースを教訓として、自社の利用規約に生かすことが大切です。

ユーザーがサイトを利用するなかで発生する問題以外にも、悪意のあるユーザーによって、利用規約の抜け穴から被害を受けるというケースも考えられます。そのまま放置していると同じ事が再び起こる可能性があるため、直ちに利用規約に反映させる必要があります。

上記のようなネガティブな原因以外にも、既存の利用規約では対応できないような新たな商品やサービスを取り扱い始めた場合や、ECサイトの利用システム、会員システムを変更した場合などにも利用規約に項目を追加・変更する必要が出てきます。

民法の改正により、利用規約を作成する前提条件が変わるということも考えられます。民法は改正が決まってから施行されるまで一定期間が空くため、その期間にしっかりと新たな利用規約を準備することが大切です。経済状況や社会情勢の変化により、変更を余儀なくされることもあります。

民法改正で個別に相手方と合意をすることなく定型約款の内容を有効に変更できる要件が規定

改正民法第548条の4では、一定の要件を満たせばユーザーと個別に合意することなく定型約款、つまり利用規約を有効に変更することができるようになりました。

改正前は、利用規約を変更する場合には原則として個別の同意を得る必要がありました。ただし例外として、利用規約の中に「利用規約の変更に関する項目」を作成し利用規約の変更についてユーザーに十分に告知・予告期間をおいていた場合には、個別の同意を得ていなくても、変更後もユーザーが異議なくサイトの利用を継続することによって「同意を得なくても利用規約の変更が有効」と解されてきました。つまり、「黙示の同意」が認められていたのです。とはいえ、新たな項目の追加など大きな変更や、ユーザーが不利となる変更には、やはり同意を得る方が安全だったといえます。

改正後は、実体的要件・手続き的要件を満たしていれば、個別の同意を得なくても利用規約の変更ができる旨が法律で明確になりました。このように聞くと、「利用規約はユーザーの同意を得ることなく一方的に変更してもよくなった」と捉えられがちですが、そうではありません。この新たに規定された要件がポイントなのです。
この要件を満たした変更の場合、一方的に利用規約を変更しても法律的に問題はありません。しかし、この「要件」から外れるような利用規約の変更をする必要が出てきた場合には、再度「同意をとる」プロセスを加える必要があります。具体的な方法は下記のとおりです。

・サイト上に利用規約の変更を告知する
・変更後にはじめてサイトを訪問した際に、「利用規約の変更」の告知を強制的に表示し、「利用規約の変更に同意する」ボタンや「利用規約の変更を確認しました」チェックボックスにチェックを入れないとサイトに入れないようにする
・変更後初めてサイトを利用(例えば商品を購入)する際に、「利用規約の変更に同意する」ボタンや「利用規約の変更を確認しました」チェックボックスを利用して、確実に「同意した上」で申込・購入に進めるようにする
・メールなどで利用規約の変更を告知する

このように、利用規約を変更する際には、必ず改正民法第548条の4の要件を満たしているかしっかりと検討した上で、それに応じた対応をするようにすることが大切です。

定型約款の内容を有効に変更できる実体的要件(民法第548条の4第1項)

実体的要件としては以下の2つのうち、いずれかを満たす必要があります。

(1)定型約款の変更がユーザーの一般の利益に適合すること
具体的には、利用料金の減額・ユーザーに何らかの権利を与える場合・利用できるサービスの拡大などがこれにあたります。
(2)定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ合理的であること
合理的といえるかどうかは、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この法律の規定に基づいて定型約款の変更をすることがあることをあらかじめ定めておいたかどうか、その場合の記載の内容、その他の変更についての事情に照らして判断されます。この点については専門的な判断になりますので、専門家に相談することをお勧めします。

定型約款の内容を有効に変更できる手続的要件(同条第2項及び第3項)

定款約款を有効に変更するためには、実体的要件と同時に手続的要件を満たす必要があります。改正民法第548条の4の手続的要件では、定型約款を変更する旨・変更内容・変更の効力発生時期を周知することが規定されています。

周知する方法としては、サイト内のユーザーが見やすい場所に告知する方法・メールで配信する方法などが挙げられます。また周知はユーザーに有利な変更を除き、変更の効力が発生するまでに完了する必要があります。効力発生までに周知が完了できなかった場合は、変更は有効とはならないため注意が必要です。

トラブル回避のためには、あらゆる状況を考慮した利用規約を作成しておくべき

利用規約がユーザーの個別の同意なしに変更できるようになったと聞くと、とりあえずの物を作っておけば良いのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、上記のとおり、個別の同意なしに変更するための要件が厳しいことをきちんと把握しておかなければなりません。サイト運営をしている限り、いつでも問題が発生するリスクがあります。そのため、利用規約を作成する時点で、その時点で最善と思われるものを完成させるべきなのは言うまでもありません。

それと同時に、常にサイトの状況・ユーザーの状況・法改正などの状況を把握し、何らかの変化があった時には、しかるべき手続きを踏んで、速やかに対応できるようにしておきましょう。

民法改正により、要件を満たせば利用規約を変更できるようになりました。とはいえ、要件は厳しい上、要件さえ満たせばどのような変更をしても良いわけではありません。ユーザーにとって心象の良くない利用規約の変更を行えば、法律的にはたとえ問題がなかったとしても、SNSで炎上するなどの悪影響がでる可能性もあるのです。SNSの影響力がここまで大きくなっている今日では、1件の訴訟問題よりもSNSの炎上の方が、企業に与える打撃が大きくなってしまう可能性もあります。

利用規約の変更の際は、上記の改正民法第548条の4の要件を満たしているかを確実に確認すると同時に、ユーザーの心象についても考慮し、今まで以上に慎重に対応することが重要です。

まとめ

ECサイトを運営するための利用規約の変更は、民法改正により要件を満たせば、ユーザーの個別の同意を得なくとも、可能になったということができます。とはいえ、この「要件を満たしているか」の判断がとても重要です。民法改正前と同様、利用規約作成には常に細心の注意を払う必要があります。また、今後も、利用規約における「利用規約の変更に関する項目」は必要であり、その記載の仕方がより重要になる点に、注意が必要です。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

※本記事の記載内容は、2020年4月現在の法令・情報等に基づいています。

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