その利用規約は有効?消費者契約法と有効な利用規約の作り方
ECサイトを運営する側として、消費者との取引契約の意味合いを持つ利用規約の作成は、避けては通れない問題です。自社サイトだから自由にできるかといえば、答えはNOです。契約の性質上、法律に基づき有効な規約を作成する必要があります。
今回はEC取引に関連が強い法規である「消費者契約法」と、自社サイトの規約の関連性を意識しながら、規約作成時に気を付けておくべき事を解説します。
目次
消費者契約法とは
取引契約に関する法律の基本は民法です。民法は、契約の基本を定めた法律であり、契約は売り手と買い手の自由な意思によりその中身を決定してよいという「契約自由の原則」を採用しています。この大原則からすると、両者の間で契約内容を自由に決定することができるのですが、すべての契約でこの契約自由の原則をあてはめると不都合が生じる部分が出てしまいます。そのため、その部分に限定して、民法の特別法である民法以外の法律により、契約自由の原則を修正しています。
その代表格の1つが消費者契約法です。消費者は、事業者に比べて、その取引の対象となる商品(又はサービス)や契約に関する知識について熟知しているわけでもなく、無条件に契約自由の原則を適用するとかえって不利益が生じる可能性があるため、契約内容に一定の規制をするという法律です。
つまり、消費者契約法とは、BtoCビジネスをするECサイト運営者にとっては、無視できない法律であり、消費者と事業者との契約において、一定の範囲で消費者に不利な内容の合意を排除して、消費者側を保護するというものです。
利用規約作成上留意すべき消費者契約法の具体的規制
「利用規約」作成にあたって、消費者契約法では具体的にどのように契約自由の原則が修正されるのかについて、考慮しておいた方が良い規定を見ていきます。
サイト運営者の責任を制限する条項についての規制
消費者契約法第8条は、事業者が契約内容を守れなかった場合や事業者の行為によって消費者に損害を与えてしまった場合、または契約のサービスや商品に何らかの欠陥があった場合における事業者の責任を制限する約束(条項)を規制しています。つまり、仮に契約書の中に「もしこの約束を守れなくても当社は責任を負いません。」という意味の記載が入っていたとしても、同条で規制する部分については、無効になります。
キャンセル料等の金額についての規制等
消費者契約法第9条は、消費者が、契約を解除し、または約束通りにお金を支払わなかった場合の約束(条項)についても規制をしています。
実際の契約書や利用規約には、「お客様のご都合でキャンセルをされる場合には、キャンセル料として料金の50パーセントをいただきます」という意味の規定が盛り込まれることがあります。
これについて、消費者契約法第9条1号は、このような利用者の契約解除に伴う料金(キャンセル料)について「同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」キャンセルを規定したとしても、当該平均的な損害額を超える部分についての条項は無効とすると定めています。
つまり、消費者からのキャンセル料で利益を得るということが禁止されているという事です。
次に「指定した期日までにご利用料金の支払いがされない場合には、年○○%の遅延損害金をお支払いただきます」という規定が盛り込まれることもよくあるケースです。この点について、消費者契約法第9条2号は、このような支払いの遅延による利息は、最大でも年率で14.6%までしかとってはいけないと定められています。そのため、仮にそれを超えるような条項があったとしても、実際には年14.6%までしか利息を請求することはできません。
消費者の利益を一方的に害する条項の無効
消費者契約法第10条は、一般的な消費者の権利を制限しまたは義務を加重する条項であって、信義誠実の原則(民法1条2項)に反するかたちで消費者の利益を一方的に害する規約は無効であると定めています。民法の例で説明すると、民法は、事業者側の原因で契約の履行すなわち商品を渡す等が遅れた場合には、利用者が催告・解除の意思表示をすれば、契約を解除できる権利があるというルールを定めています(民法第541条)。しかし、上記で見たように民法は契約自由の原則を採用していますので、当事者間で「1年たたないと解除できない」等、民法上の定めとは異なる約束をすることも原則的には許されます。
消費者契約法第10条は、そのような任意規定*を修正する約束であっても、民法の基本原則に反するかたちで消費者を一方的に害するような約束は無効になると定めているのです。
「2-1 」や「2-2」は、一般的に消費者の不利益が顕著となるケースなので、特に別途条文(消費者契約法第8条ないし第9条)が設けられています。他方、それ以外の場合には、消費者契約法第10条で個別に対応することになります。
*.民法の規定には定められていても、当事者の合意によって修正・排除できるものを「任意規定」といいます。
利用規約の変更に関するルールを明記
利用規約はサービスの提供者が一方的に変更できますが、提供者が利用規約を変更できる内容は、次のようなものに限られます(民法第548条の4)。
- 利用規約の変更が利用者の利益に適合する場合
- 利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更を行う可能性についての定めの有無及びその内容、変更に関わる事情などに照らて合理的である場合
次に、トラブルなく、利用者の個別の同意を得ずに変更後の利用規約を契約内容とするためには、以下のような手順が必要になります。
- 利用規約変更後の効力発生時期を定めること
- 利用規約変更後の内容と、効力発生時期をインターネットなどによって周知すること
利用規約を作成する際の4つの注意点
利用者への配慮
利用者とトラブルにならないよう利用規約を定めることは非常に大事なことですが、利用規約はサービス提供事業者が一方的に定めるものなので、どうしても事業者に有利な内容になりがちです。また、サービス利用にあたっては事実上同意が強制されるので、個別の条項についてきちんと認識していない利用者も多いです。あまりに理不尽な内容だと利用者の反発を招くこともあるので注意が必要です。こういった利用者の反発を避けるためには、利用者の立場に立って納得できる内容の規約にすることが大切です。また、利用規約は契約と異なり、利用者以外も見られるので内容が不適切だと利用者以外からも攻撃を受ける可能性があります。そのため、利用規約を作成する場合には、多くの人が見るという前提で、誰に見られても批判を浴びないような内容にする配慮も必要になります。
利用者の利用制限
利用者が法令に反するような不適切な行動をとった場合に、事業者が利用者の投稿した内容を削除できないと問題が拡大します。そのようなことがないよう、利用者が投稿したコンテンツの削除や修正をサービス提供事業者の権限で行うことができることも利用規約に定めておくことも重要です。
損害賠償
利用規約では特定の事項について損害賠償を負わない旨を定めることが多いですが、仮にこのような規定があったとしても、実際に損害が発生した場合には、損害賠償請求がなされ、当該規定が消費者契約法に違反し無効と判断され、裁判において損害賠償の支払いが命じられる可能性がありますので、注意が必要です。
各種法令の遵守
平成29年に民法が改正されて、「定型約款」に関する条項が規定されました(民法第548条の2~第548条の4)。改正民法の要件を満たせば、利用規約も「定型約款」に関する規律を受けることになります。民法第548条の2は、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及び実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」と定められています。
また、著作権法との関係で、無断で他人の著作物を利用しないことはもちろん、投稿型サービスの場合には、投稿された内容の著作権が誰に帰属するのか、また対価を支払うのか等を明確にしておくことが重要になります。このようにECサイトビジネスには各種法令が関係してくるため、必要に応じて、弁護士等の専門家に内容を確認してもらうことも重要です。
まとめ
本記事では、消費者契約法と利用規約の関係について解説しました。
本稿で解説したように民法や関連法によって、ECサイト運営者に一方的に有利な規定は無効になるリスクがあります。最近はECを利用することが一般的になり、消費者側も取引経験が多くなってきていますので、利用するサイトも厳しくチェックし始めていると思われます。EC事業者が、ECサイトの運営を円滑に行えることを確保しながらも、利用者にとってどのような内容が公平かという視点ももって「利用規約」を作成すると、信頼を損なう事なく安心して取引に繋げることができるでしょう。「利用規約」は、実際にビジネスをしていく中で、運営の改善や利用者の反応をみながら少しずつブラッシュアップして行くものです。その際は、消費者契約法をはじめとした法律に違反していないか、弁護士等の専門家のチェックを受けることをお勧めします。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2022年3月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。