前払式支払手段とは?ECサイトでのポイントサービス導入の際の注意点
「前払式支払手段」とは、商品券、ギフト券、プリペイドカード、電子マネーなど、利用者から前払いされた対価をもとに、買い物の際に決済を行う手段のことですが、ECサイトでのポイントサービスも、この前払式支払手段に該当する場合があることをご存じでしょうか。
ポイントサービスは、身近なイメージがあり、また導入しているEC事業者も多いことから、一見、簡単に導入できるように思えるため、関連法やその規制については意外と見落としがちです。このページでは、前払式支払手段やポイントサービスに係る法律、ECサイトにポイントサービスを導入する際の業務上の注意点等について解説します。
目次
前払式支払手段とは
前払式支払手段とは、前述のように、利用者があらかじめお金を発行者に支払うことにより、その後の買い物の決済の際に、商品代金等の支払いに利用できる手段のことをいいます。
前払式支払手段の分類
形態による分類
前払式支払手段は、その物理的な形態という観点からは、大きく以下の3種類に分けられます。
(1)紙型
従来型の紙のタイプであり、商品券(百貨店の商品券や、お米券、ビール券など)やカタログギフトなどが該当します。
(2)磁気型/IC型
磁気またはICによって管理される物理的なカードタイプであり、昔懐かしいテレホンカードや、図書カード、QUOカードなどの磁気カード、SuicaやPASMOなどの交通系ICカード、楽天EdyやWAONなどの流通系ICカードがこのタイプに該当します。
(3)サーバ型
発行者のサーバで残高等のデータを管理するタイプであり、Appleギフトなどの各種ブランドプリペイドカード(IDをウェブで入力するタイプ)やモバイル決済、各種ペイ払いなどのQRコード決済等が該当します。
発行型による分類
前払式支払手段を、発行の型という観点から分類すると、以下の2種類に分けられます。
(1)自家型前払式支払手段
「自家型」前払式支払手段とは、前払式支払手段の発行者や発行者と資本関係がある等の密接な関係がある者との間においてのみ、商品やサービスの購入に使用できる支払手段です。発行したお店でしか使用できない商品券や、そのゲーム内でしか使用できないゲーム通貨、ECサイトの場合では、ポイント等を発行したECサイトでのみ使用できる独自ポイントのことを指します。
(2)第三者型前払式支払手段
「第三者型」前払式支払手段とは、前払式支払手段の発行者以外との関係においても、商品やサービスの購入に使用できる支払手段です。QUOカードやPASMO等の交通系電子マネー、各種ペイ払いなどが該当します。
前払式支払手段に該当する条件
前払式支払手段に該当するには、次の4つの要件が必要となります。この条件を満たした支払手段は「資金決済に関する法律」(資金決済法)によってその権利が守られると同時に、事業者には相応の義務が課されることになります。
(1)金額又は物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、又は電磁的な方法で記録されていること。
(2)証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録されている金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。
(3)金額又は物品・サービスの数量が記載され、又は電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。
(4)物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。
(出典:一般社団法人日本資金決済業協会ウェブサイト、「前払式支払手段発行業の概要」より一部抜粋)
つまり、利用者が対価を支払うことにより、金額等が記録され、その金額等を表すものが発行され、商品やサービスを購入する時に使用できるもの、であることが要件となります。ここで重要なのが「対価」を支払うということであり、例えば、ECサイトにおいて、商品購入のための独自ポイントをあらかじめ対価を払って購入する場合は、前払式支払手段に該当しますが、商品購入のおまけとして(いくら以上購入すると〇%のポイントをプレゼントなど)ポイントが付与される場合などは、前払式支払手段には該当しない、ということになります。
前払式支払手段に該当しない条件
前述の4つの要件に該当する場合においても、適用除外や非該当となる条件があり、以下にあたるものなどは、前払式支払手段には該当せず、法の適用を受けないと資金決済法において定められています。
(1)利用期間が6か月以内に限定されるもの
(2)乗車券・乗船券・航空券
(3)映画館や美術館、遊園地などの入場券・施設利用券
(4)社員食堂などの食券
(5)収入印紙や切手、ゴルフ会員権証 など
ポイントサービスの関連法
ポイントサービスには、前述の資金決済法以外にも多くの法律が関わってきます。ここでは、「資金決済法」、「景品表示法」、「消費者契約法」についてみていきます。
資金決済法
「資金決済法」とは、利用者保護の観点から、資金決済に関するサービスを規制する法律です。ポイントサービスとの関係で特に重要となるのは、前項で解説した「前払式支払手段」に関わる規制となります。
発行する前払式支払手段が「自家型」であり、「基準日未使用残高」(基準日は毎年3月末と9月末)が1,000万円を超える場合は、「自家型前払式支払手段発行者」に該当するため、所管の財務局長等への「届出」と、未使用残高の2分の1以上の額の発行保証金の供託をする必要があります。この供託義務は、利用者保護の観点から課されるものであり、供託金は事業者が倒産等した際の利用者への返金などに用いられます。また、この供託義務以外にも、事業者には、「表示義務」と「報告義務」も課されます。
ただし、自家型前払式支払手段(自社ECサイトでのみ使用できる独自ポイントなど)を発行する事業者のうち、基準日未使用残高が1,000万円を超えていない事業者は、その時点では資金決済法の適用対象外となります。
発行する前払式支払手段が「第三者型」である場合、「自家型」よりも厳しい規制を受けることになり、事業者は、前払式支払手段を発行する前に、所管の財務局長等への「登録」(前述の「自家型」の場合は「届出」で足ります)を受けなければなりません。また、「自家型」の場合に課される「供託義務」、「表示義務」、「報告義務」も当然のことながら、課されることになります。
景品表示法
「景品表示法」とは、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といい、消費者を守ることを目的とした法律です。不当な広告表示を禁止したり、商品を販売することに伴う景品(プレゼント、おまけ)を制限したりする規制を定めています。
景品表示法の中でポイントサービスとの関係があるのは、広告表示の方ではなく、「景品類」に関する規制となります。ここでいう「景品類」とは、事業者が商品やサービスの取引に付随して顧客に提供する経済上の利益をいい、「値引き」はその対象外となります。ポイントは「値引き」に当たるのか、「景品類」に当たるのか迷いそうなところです。
通常、ポイントサービスには、「発行事業者でのみ適用できるポイント」と、「発効事業者以外の他社との関係でも適用できるポイント」(Vポイントなど)の2種類があり、このうち、前者を自社の商品等の対価を減額することに用いる場合は、「値引き」として規制対象に含まれないとされていますが、後者の発行事業者以外の第三者との関係でもポイントを適用できる場合は、「値引き」とはいえないと判断される可能性が高いため、景品表示法の規制対象となると考えられます。自社のポイントサービスが景品表示法の規制対象となる場合、消費者に付与する景品の金額(ポイントの額)に上限額が課されることになります。
消費者契約法
「消費者契約法」とは、事業者よりも持っている情報の質・量や交渉力に格差がある消費者を不当な契約や勧誘などから保護するために定められた法律です。消費者契約法では、消費者にとって一方的に不利益となるような契約条項は無効となると規定されています。
ここでポイントサービスに関係してくるのが、発行するポイントに「有効期限」がある場合です。有効期限については、原則として、事業者が自由に設定することができますが、それがあまりにも短い期間で設定されていると、消費者はポイントを購入したり景品としてもらったりしたとしても期限内に利用することが難しくなります。このような場合、消費者にとって一方的に不利益な条項であるとして、ポイントの有効期限を定めた契約条項が無効とされる可能性があります。また、事前に消費者に対して何ら予告等をせずに、ポイントサービスを変更・休止等してポイントを失効させるなどといったことも、消費者にとって一方的に利益が損なわれることになるため、消費者契約法により無効とされる可能性があります。
自社ECサイトでポイントサービスを導入する際の注意点
ポイントサービスは、自社ECサイトに顧客を誘引したり、囲い込んだり、他社と差別化したりするために、効果的な手段となりえます。ここまでにご説明してきた事項を踏まえて、自社ECサイトにポイントサービスを導入する際に特に注意していただきたい点について、以下に解説します。
ポイントサービスの制度設計に注意する
ポイントサービスと一口に言っても、それが前払式支払手段に該当するのかしないのか、該当する場合は「自家型」であるのか「第三者型」であるのか、ポイント付与が「値引き」にあたるのか「景品類」にあたるのかなど、複雑な判断基準があることが、これまでの解説でお分かりいただけたかと思います。
自社ECサイトにポイントサービスを導入する際は、安易に一般的な方法や同業他社のサービスを真似て導入すると、法規制に違反してしまうリスクがあります。ポイントサービスを導入する目的やターゲット、課される規制等を十分に考慮して制度設計を行う必要があります。
具体的には、前払式支払手段、特に第三者型前払式支払手段に該当する場合は、事前の登録が必要となりますので、簡単に導入することはできません。一方、「自家型」の前払式支払手段であり、基準日未使用残高が1,000万円以下であればその時点では法の適用外となりますので、未使用残高が1,000万円を超えないような制度にすることで、自家型前払式支払手段を届出や供託をしなくても導入することができるようになります。また、発行の日から6か月以内に限って使用できるポイントや、利用者が対価を支払うことなく得られるポイント(景品、おまけ、値引き)であれば、そもそも「前払式支払手段」に該当しませんので、さらに導入のハードルは下がります。
しかし、あまりに短い有効期限を設定すると、消費者契約法との関係でその規定が無効とされる可能性がありますので、注意が必要です。また、値引きではなく景品類に該当する場合は、景品表示法が定める上限額の規制にも注意が必要です。
利用規約を整備する
ポイントサービスを導入する際には、ポイントサービスの利用規約を作成し、利用者から承諾を得る必要があります。利用規約は、ポイントを発行したり使用したりする際の詳細なルールとなる規約であるため、できる限り詳細かつ必要事項の漏れが無いように定めなければなりません。また、当然のことですが、前項のポイントサービスの制度設計に沿った内容の規約である必要があります。
具体的には、ID・パスワードの管理やポイントの利用範囲、有効期限、発行の方法、ポイントを利用した決済方法、払い戻しに関することなどについて掲載しておくことが必要です。繰り返しになりますが、有効期限の設定には注意が必要です。前払式支払手段に該当しないようにするためには、6か月以内の有効期限とする方法が有効ですが、あまりに短い期間の設定であり、消費者の利益を不当に害すると判断される場合は、消費者契約法の規定により無効とされるリスクがあります。
前払式支払手段のまとめ
ポイントサービスは、近所の商店やネット上のショップなど、いたるところで見かけることがあり、一度も利用したことがないという人はいないのではないかというくらい身近なサービスとなっています。しかし、その形態はとても複雑であり、関わる法律も数多くあり、時として厳しい規制の適用を受ける場合もある、ということがお分かりいただけましたでしょうか。自社ECサイトにポイントサービスを導入する際には、法規制の理解と事前の丁寧な制度設計が不可欠となります。自社ECサイトのポイントサービスを安全かつ適正に運営するためにも、「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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