ECサイトの有効な利用規約とは?|消費者契約法に基づく作り方を解説
通販サイトやオンラインモールなどのECサイトを運営している企業のご担当者の皆様は、次のようなお悩みがあるのではないでしょうか。
「ECサイトの利用規約を作成したいが、民法、消費者契約法、特定商取引法など、ECサイトに適用される法律やルールが多くて要点が掴めない。注意すべき点はなんだろうか?」
「ECサイトの利用規約は自社で作成したが、きちんと関連法令を遵守できているか不安。」
「自社のEC事業が拡大したので、一度サイト内の規約や表示のリーガルチェックをしておきたい。」
「利用規約をどのように作成すれば、顧客に安心していただきながらビジネスの強化ができるだろうか。」
この記事では、通販サイトやオンラインモールなどのEC事業者が知っておくべき消費者契約法の基本知識と、規約を作成する際の注意点について、EC専門の弁護士が詳しく解説します。
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目次
消費者契約法とは


前述した通り、取引契約に関する法律の基本は民法です。民法は、契約の基本を定めた法律であり、契約は売り手と買い手の自由な意思によりその中身を決定してよいという「契約自由の原則」を採用しています。この大原則からすると、両者の間で契約内容を自由に決定することができるのですが、すべての契約にこの契約自由の原則をあてはめると不都合が生じる部分が出てしまいます。そのため、その部分に限定して、民法の特別法である民法以外の法律により、契約自由の原則を制限しています。
その代表格の1つが消費者契約法です。消費者は、事業者に比べて、その取引の対象となる商品(又はサービス)や契約に関する知識について熟知しているわけでもなく、無条件に契約自由の原則を適用するとかえって不利益が生じる可能性があるため、契約内容に一定の規制をするという法律です。
つまり、消費者契約法とは、BtoCビジネスをするECサイト運営者にとっては、無視できない法律であり、消費者と事業者との契約において、一定の範囲で消費者に不利な内容の合意を排除して、消費者側を保護するというものです。
- 一般法と特別法?
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法律は大きく、公法と私法に分類されます。国や公共団体と市民の関係を規律するのが公法、市民社会の関係を規律するのが私法です。公法の代表的なものが、憲法や刑法であり、民法や消費者契約法は私法に該当します。
私法は、市民が暮らしやすさのために、市民同士の利害関係を調整するのですが、あくまで市民のための法律なので、一次的には市民の考えや行いを優先します。契約自由の原則もこの考えに基づいています。このため、民法のルールというのは、市民同士が約束しなかった部分を補充したり、市民同士の約束があまりにも一方に不利であったり、公共の秩序を乱す場合にその約束や各自の権利を制限するような役割があります。
(「伊藤真の民法入門」(伊藤真)参照)しかし、民法(一般法)を適用しても市民同士の契約関係をうまく補充できない場合や、どちらか一方が著しく不利益を被ることになってしまう場合、そもそも市民同士に力の格差があるような場合もあります。そんなときに登場するのが消費者契約法(特別法)です。たとえば、民法第519条では「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。」と規定されています。この場合、利用規約に「ユーザーは損害賠償請求をしない。」旨の規定があると、ユーザーは事業者に対して損害賠償を請求できなくなる可能性があります。
ここで、消費者契約法第8条1項各号が登場します。特別法は一般法に優先して適用されます。消費者契約法では、事業者の損害賠償責任の全部又は一部を免除するような取り決めは無効になると定められているため、前述したユーザーに著しく不利な規定は無効となり、ユーザーは民法の規定に従って、事業者に損害賠償請求ができるようになるのです。
事業者と消費者との間にどのような法律が適用されるのか、個別の事例に応じて判断するためには、まずは専門家に相談をされることをお勧めします。
利用規約作成上留意すべき消費者契約法の具体的規制


サイト運営者の責任を制限する条項についての規制
消費者契約法第8条は、事業者が契約内容を守れなかった場合や事業者の行為によって消費者に損害を与えてしまった場合、または契約のサービスや商品に何らかの欠陥があった場合における事業者の責任を制限する約束(条項)を規制しています。つまり、仮に契約書の中に「もしこの約束を守れなくても当社は責任を負いません。」という意味の記載が入っていたとしても、同条で規制する部分については、無効になります。
キャンセル料等の金額についての規制等
消費者契約法第9条は、消費者が、契約を解除し、または約束通りにお金を支払わなかった場合の約束(条項)についても規制をしています。
実際の契約書や利用規約には、「お客様のご都合でキャンセルをされる場合には、キャンセル料として料金の50パーセントをいただきます」という意味の規定が盛り込まれることがあります。
これについて、消費者契約法第9条1号は、このような利用者の契約解除に伴う料金(キャンセル料)について「同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」キャンセル料を規定したとしても、当該平均的な損害額を超える部分についての条項は無効とすると定めています。
つまり、消費者からのキャンセル料で利益を得るということが禁止されているという事です。
次に「指定した期日までにご利用料金の支払いがされない場合には、年○○%の遅延損害金をお支払いただきます」という規定が盛り込まれることもよくあるケースです。この点について、消費者契約法第9条2号は、このような支払いの遅延による利息は、最大でも年率で14.6%までしかとってはいけないと定められています。そのため、仮にそれを超えるような条項があったとしても、実際には年14.6%までしか利息を請求することはできません。
消費者の利益を一方的(不当)に害する条項の無効
消費者契約法第10条は、一般的な消費者の権利を制限しまたは義務を加重する条項であって、信義誠実の原則(民法1条2項)に反するかたちで消費者の利益を一方的に害する規約は無効であると定めています。民法の例で説明すると、民法は、事業者側の原因で契約の履行すなわち商品を渡す等が遅れた場合には、利用者が催告・解除の意思表示をすれば、契約を解除できる権利があるというルールを定めています(民法第541条)。しかし、上記で見たように民法は契約自由の原則を採用していますので、当事者間で「1年たたないと解除できない」等、民法上の定めとは異なる約束をすることも原則的には許されます。
消費者契約法第10条は、そのような任意規定*を修正する約束であっても、民法の基本原則に反するかたちで消費者を一方的に害するような約束は無効になると定めているのです。
2-1、2-2で解説した事項は、一般的に消費者の不利益が顕著となるケースなので、別途条文(消費者契約法第8条ないし第9条)が設けられています。他方、それ以外の場合には、消費者契約法第10条で個別に対応することになります。
企業間取引と異なり、利用者が利用規約について事業者に交渉を行う機会はないので、利用者の権利を不当に制限することはできないのです。
*.民法の規定には定められていても、当事者の合意によって修正・排除できるものを「任意規定」といいます。
利用規約の変更に関するルールを明記


<一方的に変更できる場合>
・利用規約の変更が利用者の利益に適合する場合
・利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更を行う可能性についての定めの有無及びその内容、変更に関わる事情などに照らして合理的である場合
<利用者の個別の同意を得ず、利用規約を有効の変更するポイント>
・利用規約変更後の効力発生時期を定めること
・利用規約変更後の内容と、効力発生時期をインターネットなどによって周知(告知)すること
以上の2点を行うことが必要です。
・【民法改正対応】ECサイト運営に重要な利用規約は、一方的に変更しても問題ないのか?
利用規約を作成する際の4つの注意点


利用者への配慮
利用者とトラブルにならないよう利用規約を定めることは非常に大事なことですが、利用規約はサービス提供事業者が一方的に定めるものなので、どうしても事業者に有利な内容になりがちです。また、サービス利用にあたっては事実上同意が強制されるので、個別の条項についてきちんと認識していない利用者も多いです。あまりに理不尽な内容だと利用者の反発を招くこともあるので注意が必要です。こういった利用者の反発を避けるためには、利用者の立場に立って納得できる内容の規約にすることが大切です。また、利用規約は契約と異なり、利用者以外も見られるので内容が不適切だと利用者以外からも攻撃を受ける可能性があります。そのため、利用規約を作成する場合には、多くの人が見るという前提で、誰に見られても批判を浴びないような内容、サイトマップを作成して誰もが見やすいような設計をするといった配慮も必要になります。
利用者の利用制限
利用者が法令に反するような不適切な行動をとった場合に、事業者が利用者の投稿した内容を削除できないと問題が拡大します。そのようなことがないよう、利用者が投稿したコンテンツの削除や修正をサービス提供事業者の権限で行うことができることも利用規約に定めておくことも重要です。
損害賠償
利用規約では特定の事項について損害賠償を負わない旨を定めることが多いですが、仮にこのような規定があったとしても、実際に損害が発生した場合には、損害賠償請求がなされ、当該規定が消費者契約法に違反し無効と判断され、裁判において損害賠償の支払いが命じられる可能性がありますので、注意が必要です。
また、消費者が支払う損害賠償についても注意が必要です。消費者契約法では、下記のようなルールがあります。
・契約解除や損害賠償額、違約金を合算した額が、同業同種の平均的な損害額を超えた場合には、平均額を超えた部分が無効になる(消費者契約法第9条1項1号)
・消費者の支払についての遅延損害金、違約金が年14.6%の利息を超えるものは、その超えた金額が無効となる。(同法第9条1項2号)
各種法令の遵守
平成29年に民法が改正されて、「定型約款」に関する条項が規定されました(民法第548条の2~第548条の4)。改正民法の要件を満たせば、利用規約も「定型約款」に関する規律を受けることになります。民法第548条の2は、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及び実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」と定められています。
また、著作権法との関係で、無断で他人の著作物を利用しないことはもちろん、投稿型サービスの場合には、投稿された内容の著作権が誰に帰属するのか、また対価を支払うのか等を明確にしておくことが重要になります。このようにECサイトビジネスには各種法令が関係してくるため、必要に応じて、弁護士等の専門家に内容を確認してもらうことも重要です。その他にも、顧客を広告などで誘引(勧誘)する場面においては景品表示法について留意する必要があります。
民法や関連法に抵触した場合には、ECサイト運営者に一方的に有利な規定は無効になるリスクがあります。ECが身近になってきた昨今、利用者側の取引経験も増えています。利用者が「どのサイトなら安心して利用できるか?」という観点で、利用するサイトを厳選することも一般的です。
EC事業者が、ECサイトの運営を円滑に行えることを確保しながらも、利用者にとってどのような内容が公平かという視点ももって「利用規約」を作成すると、信頼を損なう事なく安心して取引に繋げることができ、消費者の購買意欲低下を防止する効果も期待できます。
利用規約は、実際にビジネスをしていく中で、運営の改善や利用者の反応をみながら少しずつブラッシュアップして行くものです。その際は、消費者契約法をはじめとした法律に違反していないか、弁護士等の専門家のチェックを受けることをお勧めします。
ECサイトの利用規約についてのお悩み、リスク、課題は解決できます


この記事では、EC関連サービスの企業の皆さまが、サイト開設やサイトリニューアルを行う場合に、利用規約の作成について、直面すると思われるお悩み、リスク、課題について、ヒントになる基本的な知識をお伝えしました。これらの情報を、皆さまの会社にうまくあてはめて、一つずつ実行していくことで、貴社のお悩みや課題が解決し、貴社のサービスへのユーザーや社会の信頼が大きく増え、ビジネスが成功する未来が実現すると信じています。
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「ECサイトの利用規約の作成、変更ポイントがきちんと理解できるようになり、業務に活かせるようになる。」
「法令の改正、サイト利用者の規模、扱う商品の変更、同業他社のトラブル事例、様々なものを考慮しつつ、自社にとって最適な利用規約ができるようになる。」
「自社のビジネスのリスクや問題点について洗い出しができ、利用規約をはじめとしたサイトの各表示にて対処をすることができる。」
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顧問先企業様からは、
「利用規約はネットのひな型を参考に作成していたが、アドバイスをもらいつつ、自社のビジネスに適した利用規約を作成してもらえた。」
「利用規約の作成はもちろん、ECサイトに必要な表示についても相談でき、EC事業開始後の業務やトラブルについても相談できて業務効率や意思決定がスピーディーにできるようになった。」
「利用規約の相談を通して、コンプライアンス研修をしてもらうことになり、従業員の意識向上につながった。」
このようなフィードバックをいただいております。
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※本稿の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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