改正消費者契約法第10条とは?定期購入の契約は無効となるのか?
目次
EC・通販サイトでは、商品の定期購入や契約の自動更新など、継続的に取引をするケースが頻繁に存在します。そのような継続的な取引に関する契約において、法律面で留意する必要があるのが改正消費者契約法第10条です。本稿では、改正消費者契約法第10条について詳しく解説する共に、EC・通販サイトにおいて継続的な商品・サービスを販売する際の法的な注意点について解説します。
消費者契約法とは
まず、消費者契約法とは、消費者を守るための法律です。消費者が事業者と契約をする際、消費者と事業者の間には持っている情報の質・量や交渉力などといった面で、圧倒的な格差が認められる場合があります。そのような状況で、事業者が自己に一方的に有利な条項を定めた場合、消費者は不利な立場にあるため、消費者の利益を守る必要があります。消費者が不当に不利な契約を結ばされてしまうことがないよう、消費者の正当な利益を守るため、2001年4月1日に消費者契約法が施行されました。消費者契約法では、消費者契約について不当な勧誘による契約の取消し、不当な契約条項の無効等を規定しています。
2006年には法改正が行われ、消費者団体訴訟制度が導入されました。2008年の法改正では、消費者団体訴訟制度の対象が景品表示法と特定商取引法に、2013年の法改正では、その対象が食品表示法に拡大されました。
さらに、2016年・2018年には、取り消しうる不当な勧誘行為の追加、無効となる不当な契約条項の追加等の民事ルールの改正が行われています。
このように消費者契約法は、EC・通販サイトやインターネットショッピングの普及等の消費の変化に伴い改正を繰り返してきました。中でも今回のポイントとなる第10条は、消費者庁によると、無効となる契約条項を民法より具体的にしたものと位置づけられています。
消費者契約法第10条の改正ポイント
改正の背景
消費者契約法改正の背景として、EC・通販サイトを通じたインターネットショッピングにおいて、毎月商品が自動で送られてくるといった定期購入を前提とした契約トラブルが多発したことが挙げられます。消費者が意図して継続的な商品購入の契約を締結したのであれば問題はありませんが、トラブルの多くは下記のようなものでした。
- 一度の購入のつもりで注文をしたにもかかわらず翌月も商品が届いた
- 初回無料トライアルのみの注文のつもりだったが翌月商品が届き高額な料金が請求された
このようなトラブルに対応するため、法改正が行われました。
どのように改正されたのか?
2019年6月3日の消費者契約法の改正によると、消費者契約法第10条に「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項であって消費者の利益を一方的に害するものは無効とする」という例示が規定に追加されました。
消費者契約法第10条
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
改正前
民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 |
改正後
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 |
改正消費者契約法第10条は、下記の2つの要件に該当する場合に、当該消費者契約の契約条項を無効とするものです。注意すべきなのは、この2つの要件に該当して初めて無効になるということで、片方だけに該当する場合には、当該条項は無効とはされません。
①第1要件(消費者契約法10条前段)
法令中の公の秩序に関しない規定の適用(任意規定)による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項
②第2要件(消費者契約法10条後段)
民法第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害する条項
つまり、消費者契約法は、民法、商法その他の法律の任意規定の適用による場合に比べて、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する特約で、その程度が民法第1条第2項の基本原則(信義誠実の原則)に反するものを無効とするものです。
EC・通販サイトの定期購入という取引形態自体は問題ありませんが、その取引の条件の中で、上記の2つの要件に該当し、消費者の利益を一方的に害すると判断されれば、消費者契約法第10条によってその契約条項が無効となる可能性があります。
定期購入や契約の自動更新は、どのようなケースで無効となるのか?
有効となるケース
定期購入や契約の自動更新が有効となる取引には、以下のようなケースが考えられます。
- 購入時点で1年契約・定期購入・〇回継続購入等と、継続的な契約であることが明確に表示されている
- 契約が自動継続する旨が確実に目にする場所に表示されている
- 自動継続するかどうか、チェックボックスや、はい/いいえで意思表示をする形になっている
- 自動継続をしないという選択肢を選ぶことができる
- その他、当該条項によって消費者が受ける不利益の程度が大きいと考えられる事情等がない
上記のような場合には、継続購入に対する消費者の予測可能性が担保されており、実質的に契約を更新しないという意思表示をする機会が与えられていると考えられます。そのため、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとまではいえず、第2要件には該当しないため、当該条項は無効にならない可能性が高いと考えられます。
無効となるケース
逆に以下のような場合には、定期購入や契約の自動更新は無効になる可能性があります。
- 購入すれば自動的に継続購入という契約になっており、購入時点で、継続的な契約であることが明確に表示されていない
- キャンセルの連絡をしなければ自動的に継続して商品が送られてくる
- 契約が自動継続する旨が利用規約の中に小さく表示されているのみで、消費者が確実に理解して契約しているとはいえない
- 複数回購入の契約や自動継続である旨が、申込画面からリンクされていないページに表示されているのみである
- 一度のみの購入を選ぶことができず、商品を購入したければ必ず継続契約にしなければならない等、申込者が商品の売買契約を継続して締結する必要がある場合の表示がなされていない
これらのように、実質的に契約を更新しないという意思表示をする機会が与えられないまま契約が継続・更新されてしまうと考えられる場合には、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する可能性が高く、当該条項は無効と判断される可能性が高くなります。
自動的な契約更新や継続購入でトラブルにならないためには
消費者契約法が改正され、継続購入や契約の自動更新が無効になる可能性が出てきたからといって、EC・通販サイトにおいて継続購入や契約の自動更新が全くできなくなるわけではありません。特定商取引法による通信販売に係る広告規制によると、ウェブ上で商品の販売等を行う事業者は、商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるときは、次の事項を表示しなければならないとされています(同法第11条、同規則第8条)。
期間の定めを設けていない定期購入契約(購入者から解約の申入れがない限り契約が継続されるもの)の場合は、表示事項のうち「金額」は、例えば、半年分や1年分など、まとまった単位での購入価格を目安として表示するなどして、当該契約に基づく商品の引渡しや代金の支払が1回限りではないことを消費者が容易に認識できるようにすることが望ましい。また、「契約期間」については、当該契約が消費者から解約通知がない限り契約が継続する無期限の契約である旨を示す必要がある。 なお、1回の契約で複数回の商品の引渡しや代金の支払を約することとなる場合は、法第11条第1号から第3号までの規定により、買い手が支払うこととなる代金の総額等の条件を全て正確に記載しなければならない。 |
つまり、定期購入の契約内容が消費者に対し明確に表示されており、その契約内容に消費者が同意する措置が図られていて、かつ契約を更新しないという機会が与えられる場合は、他に消費者の受ける不利益が大きいという事情等がなければ、その定期購入契約は有効となるのです。
改正消費者契約法10条をふまえ、EC・通販サイトが継続的な商品・サービスを販売する際にとるべき対策は以下の通りです。
●定期購入の取引の主な内容を全て明確に表示する
定期購入の主な内容がどのようなものであるか、具体的にわかりやすく購入者が目にする場所に全て表示する必要があります。特に、契約期間や購入回数、初回に無料や割引などの特典がある場合2回目以降・通常価格はいくらになるか、各回ごとの商品の代金及び送料並びに支払総額等という実際に購入者が負担する金額を明確にする必要があります。
●申込画面に定期購入契約や継続契約であることを明示する
商品ページだけでなく、購入画面・申込画面においても定期購入契約や継続契約であることを明確に表示する必要があります。
●利用規約や契約内容は商品選択画面から確認できる位置に設置
商品を購入する前に確認できるよう、商品選択画面上もしくは商品選択画面から確認できる位置に利用規約や契約内容を設置する必要があります。利用規約・契約内容を確認、もしくはチェックボックスにチェックを入れないと購入画面に進めないようにしておけば、より確実です。また、重要な項目については、最終申込画面内にも再度記載するようにしましょう。
●定期購入の解除方法を明確に表示する
定期購入や継続購入の契約をした後、どのように解除すればいいのか、いつから解除できるのかといった具体的な方法を表示する必要があります。
●定期購入をするか、一回のみの購入かを選択できる措置をとる
定期購入か一度のみの購入かを、選択できるように工夫するとよいでしょう。定期購入・継続購入を選択する場合には、購入者自らがチェックボックスにチェックを入れるなど、同意を得たことが明確になるようにしておくとよいでしょう。
●申込確認メールや商品送付時に添付する納品書に契約内容と解除方法を記載する
さらに、申込確認のメールや商品に添付する納品書に継続購入であるという旨を記載しておけば安心です。同時に、契約を解除する方法や連絡先も記載しておくといいでしょう。
定期購入契約はトラブルが発生しやすいという実情を知った上で、できるだけわかりやすく、消費者に対し表示することをこころがけ、信頼されるEC・通販サイトの運営を目指しましょう。
まとめ
消費者契約法が改正されたことで、自動的な契約更新や継続購入で商品・サービスを販売する場合には、適用される法律を理解したうえで、契約内容や販売ページの表記等に気を付ける必要があります。トラブルを未然に防ぐためにも、不安がある方はEC・通販サイト上での販売表記の方法や契約内容の事前のリーガルチェックを弁護士に相談することをおすすめします。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2021年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所