EC取引の返品トラブルを防ぐ!法律知識と対応方法
目次
実際に店頭で商品を確認する取引と違い、EC取引(インターネット取引)では商品を直接手に取る事ができないため、双方にとって誤解のないよう表示をする必要があります。商品に問題がない場合でも、消費者の返品要望はよくあるものですが、トラブルに発展しないよう事前に表示にて伝えておくべき事があります。本稿では、返品について特定商取引法に基づいた消費者への対応方法を解説します。
クーリング・オフ制度の適用があるか
クーリングオフとは、いったん契約の申込みや契約の締結をした場合であっても、契約を再考できるように、一定期間内であれば、無条件で申込みの撤回や契約を解除できる制度です。定められたその期間内であれば一方的に「返品」できるものです。
民法の原則
民法では、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。) に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」(民法522条1項)とあります。このように成立した契約は、双方を拘束し、一方的には契約内容を変更することはできません。民法の原則からすると、消費者から一方的な「返品」をすることは許されていないこととなります。
特定商取引法
しかし、他の法律によってこの民法の原則も修正されています。例えば「特定商取引法」です。クーリングオフは、この「特定商取引法」に定められ、消費者トラブルが起こりやすい取引に適用されます。
EC取引の場合
EC取引は、特定商取引法の「通信販売」に該当し、特定商取引法の適用を受けます。しかし、他の6つの類型(訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引および訪問購入に係る取引をいいます。)とは異なり、「通信販売」には、クーリングオフを認める規定はありません。すなわち、EC取引にクーリングオフ制度は適用されないということになります。
「通信販売」の場合に認められる「法定返品権」とは
「EC取引」、「通信販売」においては、下記の特別な制度が用意されていますので注意してください。
特定商取引法15条の3
(通信販売における契約の解除等)
「第15条の3 通信販売をする場合の商品又は指定権利の販売条件について広告をした販売業者が当該商品若しくは当該指定権利の売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は売買契約を締結した場合におけるその購入者(次項において単に「購入者」という。)は、その売買契約に係る商品の引渡し又は指定権利の移転を受けた日から起算して8日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(当該売買契約が電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 (平成13年法律第95号)第2条第1項 に規定する電子消費者契約に該当する場合その他主務省令で定める場合にあっては、当該広告に表示し、かつ、広告に表示する方法以外の方法であって主務省令で定める方法により表示していた場合)には、この限りでない。
2 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は指定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする。」
上記の通り、この制度は、法律的には「法定返品権」と呼ばれ、クーリング・オフとは大きく異なります。
クーリング・オフ制度との違い
クーリング・オフ制度では、特約の有無、表示の有無に関わらず、一定期間内であれば、無条件で、一方的に「返品」することができます。しかし、EC取引を含む「通信販売」では、特約が広告に表示されていれば、消費者からの一方的な「返品」は認められません(上記、特定商取引法第15条の3第1項但書)。なお、ここでいう特約とは、「返品の可否」、「返品の期間等条件」、「返品に係る費用負担の有無」があれば、これらを表示することであり、これらの事項を省略することはできません(特定商取引法第11条)。ここが、「クーリング・オフ」制度と「法定返品権」制度の大きな違いです。
「法定返品権」を行使できなくなる特約表示
特約が広告に表示されていれば、消費者からの一方的な「返品」は認められません。ただし、この「特約」の内容や表示の方法は法律で定められており、これを守らないと「法定返品権」が消費者に認められ、「返品」に応じなければならないので注意してください。
<特約に必要な表示内容>
- 返品を認めるか否か
- 返品を認める場合にはそれが可能である期間等の条件
- 返品に必要な費用の負担の有無
<表示方法>
法律は、その特約内容を一定の表示方法によることを要求しています。これらの要求を充たしていないと、「特約」は無効であり、消費者に「法定返品権」が認められることになります。
特定商取引法は、その特約内容を「顧客にとつて見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとって容易に認識することができるよう表示すること」(特定商取引法主務省令第9条3号)としています。
さらに、EC取引の場合には、一般の「通信販売」と異なり、電子契約法(正式名称:電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)という法律が適用になり、特定商取引法15条の3第1項但書、電子契約法2条第1項、特定商取引法主務省令16条の3により、最終申込画面における特約の表示をすることまでが義務づけられています。
具体的には、最終申込画面も含む、商品等を販売しているページ自体に常に表示させる方法であれば問題はありません。しかしながら実際には、常に同一画面上に表示すると商品ページのデザインや宣伝に影響が出ることもあるため、他のページにリンクを貼るという方法が多いようです。
また、「返品不可」とする場合には、商品画面と同一のページに掲載する方法も良いですが、常に「返品不可」という文字を表示させることは、消費者に不安を与え、購買意欲を削ぐ可能性もあります。一定の条件(期間等)の下、返品を認めるのであれば、その表示を省略することはできませんので、リンクを貼るという方法をとるのが良いでしょう。最近のECでよくあるのは、開封前の返品を認めるというものです。消費者にとっては、すべて不可よりも安心感が増すため、購買意欲を削がない表示としておすすめの方法です。
【参考】経済産業省のガイドラインと返品特約の表示に関するJADMA指針
経済産業省と公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)より、返品特約の表示に関する指針が出ていますので、一部ご紹介します。それぞれサイトに詳しく記載がありますので、参考にするとよいでしょう。
<経済産業省ガイドライン>
・各広告媒体に共通の整理
広告媒体の別を問わず、返品特約について、消費者が認識しやすいような方法で表示する必要がある。
-1.返品に関する事項については、いかなる媒体・場面で表示するにせよ、それが、他の事項に紛れ、埋没しないような方法で表示されている必要があるとする。(例:他の事項と区別がつくよう、「返品に関する事項」等のタイトルを掲げた上で、その下部に返品特約について表示するなど)。
-2.返品に関するトラブルの主な原因となっている 「返品の可否」・「返品の条件」・「返品に係る送料負担の有無」(返品特約における重要事項)については、法第15条の2の趣旨に照らし、他の事項に比し、より明瞭な方法での表示が必要であるとする。 (例:商品の価格や電話番号等 消費者が必ず確認する事項の近くに表示する 商品の価格等と同じ表示や電話番号等、消費者が必ず確認する事項の近くに表示する、商品の価格等と同じ表示サイズとする、色文字・太文字を用いるなど)
(経済産業省ウェブサイト、「返品特約の表示に関するガイドラインのイメージ」、https://www.meti.go.jp/shingikai/shokeishin/tokutei_shotorihiki/pdf/g90414a04j.pdf)
<公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)>
・インターネット上で申込を受ける場合、特に下記の点について注意すること。
-1.消費者が、自己の契約合意内容について、注文等を送信する前に確認・訂正等のできる画面を設けること。
-2.消費者がパソコン等の操作を行うことにより、当核操作が申込みの意思表示となることを、消費者が容易に認識できるように表示すること。
-3.申込を受けた際は、電子メール等何らかの手段で受注確認メッセージを送信することが望ましい。
-4.事業者は消費者との契約の締結において、誤操作の防止(二重送信やデータの誤入力等)のために合理的な操作手順を工夫すること。
-5.情報の更新日情報の更新日を明示することが望ましい。明示がない場合は、消費者の認識した時点を、最新の更新日と仮定する。
(公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)、「通信販売業における電子商取引のガイドライン」、https://www.jadma.or.jp/)
まとめ
本記事では、ECサイト運営者がどのような場合に返品に応じなければならないのかについて取り上げました。クーリング・オフ制度と法定返品権制度の違いを理解し、消費者にとって安心して利用できるECサイトを作ることが大切です。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしております。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、いつでもご相談ください。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番オススメなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。多数のEC企業様が、サービス設計や利用規約・契約書レビューなどにあたり当事務所を活用されていますので、いつでもご相談ください。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2022年3月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。