著作権侵害を回避するために!EC事業者が知っておきたいインターネット上の著作物と著作権法の関係
目次
昨今のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、個人のブログやSNSなど、誰もがインターネット上で簡単に自分の創作物を発表できるようになりました。また、インターネットの普及により、インターネット上で商品やサービスを提供するECは私たちの日常生活の一部となっています。実店舗を持たないEC事業は比較的参入障壁が低く、始めやすいビジネスといえるかもしれませんが、自社ECサイトにおいて、インターネット上に存在する他人の著作物を利用する場合などは、うっかり、または知らずに著作権侵害をしてしまわないよう、著作権について十分に理解した上で事業を行うことが求められます。
この記事では、EC事業者が知っておきたいインターネット上の著作物と著作権法の関係を解説します。
著作権法とは?
著作権法は、著作物の創作者(著作者)に対して、その作品を保護する権利を与え、他人による著作物の無断利用を規制する法律です。
創作者の権利は、人格的な利益を保護する「著作者人格権」と、財産的な利益を保護する「著作権(財産権)」の二つに分かれます。著作者人格権は、著作者だけが持つことができる権利で、譲渡したり、相続したりすることはできません(著作権法第59条)。一方、著作権(財産権)は、その一部又は全部を譲渡したり相続したりできます(著作権法第61条第1項)。したがって、著作者が、創作した著作物の著作権(財産権)を他人に譲渡している場合、第三者が、その著作物を利用する際には権利者(著作権者)の許諾が必要です。
また、著作権が著作物を創作した者に付与される権利であるのに対し、著作物等を伝達した者に付与される権利は「著作隣接権」と呼ばれており、例えば、実演家や放送事業者等が著作隣接権者となります。
著作権法の基本的な考え方
著作権法第1条は、著作権法の目的を以下のように定めています。
第1条(目的)
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法の基本的な考え方は、創作者に対して、その著作物を一定の期間、独占的に利用する権利を与えることです。これにより、創作者は自らの作品に対して経済的な利益を得ることができます。また、創作者に一定の権利を与えることによって、創作活動を奨励し、文化や研究の発展を促進することも目的とされています。
著作物とは?
著作権法は著作物を保護するための法律ですが、具体的に、どのようなものが著作物にあたるのでしょうか。著作権法第2条では、「著作物」を以下のように定義しています。
第2条(定義)
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
著作物とは、文学、音楽、映像、美術、写真、ソフトウェアなど、創作的な表現を含む幅広いものです。著作権法で保護される著作物は、印刷など固定されている必要はなく、インターネット上の情報も含まれます。なお、著作物とは、「思想又は感情」を表現したものであるため、天気予報や死亡記事のような「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法第10条第2項)は著作物には該当しません。
他人の著作物を利用するには?
誰でも簡単にアクセスできるインターネット上の情報ですが、著作権法第2条に定められる著作物にあたる場合、他人が無断で利用することはできません。インターネット上の文章を印刷する、画像、音楽、動画などをダウンロードする等、著作物の利用には、著作権者や著作隣接権者の許諾が必要となります。
ただし、著作権法には私的使用のための複製(第30条)や引用(第32条)などの例外規定(「権利制限規定」と呼ばれています)が存在し、一定の条件下では権利者の許諾がなくても利用することができます。
また、検索エンジンの利用においても著作権が問題になることがあります。例えば、GoogleやYahoo!などを利用して、「海外旅行 ガイドブック おすすめ」と入力すると、記事のURL、記事タイトル、記事の内容の一部、ガイドブックのサムネイル画像などが表示されます。このような検索結果が著作物にあたる場合、著作権法上の「複製」に該当しますが、すべてのサイトの権利者から許諾を得るのは現実的ではありません。そこで、著作権法では、情報を検索エンジンで検索し、検索結果を表示する場合、一定の条件の下、公表された他人の著作物について軽微な範囲で利用できることが定められています(第47条の5)
以上のように、他人の著作物を利用する際には、原則として権利者の許諾が必要です。ただし、著作権法には権利者の許諾を得ずに著作物を利用できる権利制限規定が設けられており、一定の場合には、権利者の許諾なしに著作物を利用できます。
無許諾で著作物を利用できる場合とは?
権利者の許諾を得ずに著作物を利用することは原則として著作権侵害となるのは上述のとおりですが、一定の場合には無許諾で著作物を利用できる権利制限規定には、どのようなものがあるのでしょうか。
以下で、EC事業者が知っておきたい権利制限規定の具体例を見てみましょう。
適切な引用
著作権法上、例えば自分の意見と比較するために他人の著作物を「引用」して利用する場合において、一定の条件を満たせば権利者の許諾を得る必要がありません(第32条第1項、第48条)。
具体的な条件は以下のとおりです。
ア. すでに公表されている著作物であること
イ. 「公正な慣行」に合致すること
ウ. 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
エ. 「出所の明示」をする
公正な慣行とは、例えば引用を行う必然性があることや、カギ括弧などにより引用部分が明確になっていることを指します。また、正当な範囲内とは、例えば引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確であることや、引用される分量が必要最小限度の範囲内であること、本文が引用文より高い存在価値を持つ必要があります。
著作権法上の引用のルールを逸脱して他人の著作物を利用した場合、著作権侵害となる恐れがあります。EC事業者が自社のECサイトの運営にあたり、他人の文章、写真、イラストなどを引用して掲載する場合は、著作権侵害とならないよう、十分注意する必要があります。
私的使用のための複製
著作権法は、個人や家庭内など限られた範囲内において、仕事以外の目的で、使用する本人が複製する場合、権利者の許諾を得る必要がないと定めています。ただし、インターネット上に違法アップロードされた音楽や映像を、違法と知りつつダウンロードする行為は、私的使用の場合でも違法です(第30条)。
それでは、例えば個人ブログやSNSで他人の写真や音楽を投稿する場合、仕事とは全く関係ない内容であれば、私的使用にあたるのでしょうか。答えはノーです。インターネットで配信した時点で、不特定多数の人が自由に閲覧できる状態になることは、著作権法上の「私的使用」の範囲を超えてしまうためです。
また、インターネットで配信すると著作権法上の「公衆送信権(放送、インターネット等、無断で著作物を公衆向けに送信されない権利)」の侵害となります(第23条)。インターネット上で簡単にコピーができる環境となった現代において、他人の著作物をうっかりインターネット上に送信してしまわないよう、著作権に関する知識を身につけることは、EC事業者にとって非常に重要であるといえるでしょう。
黙示の許諾とは?
権利制限規定に該当する、または権利者から許諾を得ることにより、他人の著作物を利用できることは、ご紹介したとおりですが、「黙示の許諾」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは著作権法に明文化されている規範ではありませんが、裁判所が採用する法理論に補充的に組み込まれて適用される法原則で、明確な許諾がなくても、著作者が異議を唱えずに、実際は許諾しているだろうと推測されることを指し、著作物の内容や利用の仕方によって著作権侵害にあたらない場合があります。
黙示の許諾の具体例
それでは、黙示の許諾が認められ、著作権侵害とならないケースとはどのようなものか、見ていきましょう。誰でも無償で自由にアクセスできるグルメサイトに掲載されているクーポンをプリントアウトすることなどは、サイト上にプリントアウトを禁止する文言等が入っていない限り、著作権者も閲覧者がこのような形で利用することを想定しているといえるでしょう。
また、例えば誰でも無償で自由にアクセスできるニュースサイト上に掲載されているニュース記事をプリントアウトして個人で閲覧することなども、著作権者の黙示の許諾があるとみなすことができるでしょう。ただし、当該ニュース記事を大量に印刷して販売することや、営業資料の一部として社内外で配布することなどは、黙示の許諾の範囲外とみなされ、著作権侵害となると考えられます。
まとめ
デジタル化・ネットワーク化の進展は、著作権法にも大きな影響を及ぼしています。例えば、令和2年の改正著作権法では、海賊版対策としてリーチサイト対策や侵害コンテンツのダウンロード違法化を定めるなど、著作権者の利益を守るための規制が行われていますが、インターネット上の情報利用の拡大に、著作権法の制度改正が必ずしもタイムリーには追いつかず、グレーゾーンが生じる場合もあるでしょう。また、著作権法は比較的頻繁に改正が行われているため、EC事業者が自身の事業に関係の深い新たな制度について的確に理解するのが難しい場合などは、専門家に相談されることをおすすめします。弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、より実務的なケースや実例などを踏まえたアドバイスも可能です。疑問点がありましたらお気軽にお問合せください。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番オススメなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。多数のEC企業様が、サービス設計や利用規約・契約書レビューなどにあたり当事務所を活用されていますので、いつでもご相談ください。
※本稿の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。