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通販・EC事業参入

EC事業者が知っておくべき「不正競争防止法」|法改正による注意事項を解説

昨今のデジタル化の一層の進展等を受け、不正競争防止法改正がなされ、2024年4月に施行されています。万一不正競争防止法に違反すると、多額の賠償金や信用の失墜からの客離れといった深刻な影響を受ける可能性があります。そのため、定期的に自らのサイトや市場環境を評価し、不正競争防止法やその他の関連法令に基づくリスクを洗い出すことは、自社の信用を傷つけないために大切なことです。
今回はEC事業者が気を付けるべき不正競争防止法改正のポイントと注意事項を解説します。

不正競争防止法に関する基礎知識

不正競争防止法とは

不正競争防止法は、事業活動における公正な競争を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です。不正競争を防止することにより、事実上消費者保護も実現されることになります。
特にネットショップ運営においては、他の有名な商品・営業であると誤認させる行為(法2条1項1号)、他の商品形態を模倣して販売する行為(法2条1項3号)、商品・サービスの原産地や品質等を誤認させる表示を行うこと(法2条1項20号)などが違反行為として挙げられます。

不正競争防止法改正のポイント

不正競争防止法は、時代の変化に対応するために度々改正されてきました。今回注目すべき改正は、2023年6月に行われたもので、2024年4月1日から施行されています。本改正では、知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏まえ、デジタル空間での模倣行為の防止、営業秘密や限定提供データの保護強化、そして外国公務員贈賄に対する罰則の強化等が図られました。また、新たに国際的な営業秘密侵害事案に対応するための裁判管轄規定も創設され、日本法の適用範囲が明確化されました。さらに、損害賠償額算定規定が拡充された点にも留意が必要です。

上記改正により企業は新たな法律の遵守を求められることになりますが、特にEC事業者、とりわけ自身のビジネスにメタバースの活用を取り入れていたり検討している企業にとって、上記の「デジタル空間における模倣行為の防止」は大変重要なポイントです。これに対応するため、企業は自身の取扱う商品について今一度見直し、社員教育を実施する必要があります。
さらに、海外展開しているEC事業者全てにおいて、外国公務員贈賄に対する罰則の強化に対応するため、企業内部のコンプライアンス体制を強化することが求められます。具体的には、贈賄防止の方針を明確にし、その実施を監督する内部監査体制を整備することが重要です。また、国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化に対応するため、企業の法務部門は国際的な裁判管轄規定や適用法に関する最新情報を把握し、適切な対応策を講じる必要があります。
改正に対する具体的な対応のポイントについては、3. 法改正を受けてEC事業者が注意すべきポイント にてもう少し詳しく解説します。

過去の小売販売における不正競争防止法違反の事例

小売販売において、不正競争防止法に抵触する事例としては、以下のようなものが挙げられます。同法改正前の事例を2つみてみましょう。

事例①~品質誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)

まず、ECサイトにおける「広告表示」が不正競争防止法の「品質誤認表示」にあたるものであるか否かが争われた事例を紹介します。
原告A社と被告B社はともに、インターネット等を通じてオリゴ糖関連商品を販売する企業です。被告B社は被告商品Bについて、実際に含まれるオリゴ糖成分が50%台であるにもかかわらず「オリゴ糖100%」等の広告表示をして販売していましたが、原告A社は、当該行為が品質誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)に該当するとして、被告B社に対し表示の差止及び損害賠償を請求しました。
東京地裁は、『「純粋100%オリゴ糖」、「純度100%」、「100%高純度のオリゴ糖」、「100%高純度」の表示は、需要者に対し、商品Bに含まれるオリゴ糖の成分の割合が、100%であるか、少なくともそれに近いものであるとの印象を与えるものであって、B商品の品質について誤認させるような表示であると認められる。』として「品質誤認」を認め、約1,800万円の損害賠償請求を認容しました。
A社にとってみると、B社が「品質誤認表示」(広告)を行うことによって、消費者がA社の商品ではなくB社の商品を選ぶこととなり、A社商品の販売機会を奪われ、損害を被ったと主張したわけですが、本件ではこの主張が認められたということです。
なお、A社はB社に対し、「信用棄損行為」(不正競争防止法第2条1項21号)があったとも主張しましたが、裁判ではこちらは認められませんでした。

EC事業は、小売販売のなかでも他社商品と比較されやすい市場環境にあるといえます。そのため、キャッチコピーや商品説明等の宣伝文句の内容が次第にエスカレートしたり、場合によっては他社を貶めるような広告表現をとってしまうケースが生じやすくなります。こうした宣伝文句の内容に虚偽があり、それにより競合他社の売上を侵害しているような場合、不正競争防止法に抵触するとして損害賠償や差し止め請求を起こされてしまう可能性があります。
本事例で問題となった「品質誤認表示」や「信用棄損行為」等については、本改正のうち、デジタル空間における該当行為の禁止とは関連しませんが、EC事業者においては、引き続き十分な注意を払う必要があります。

事例②~商品形態模倣(不正競争防止法2条1項3号)

また、ECサイトではありませんが小売販売において、過去に「商品形態模倣」が認められた事例を紹介します。
アパレル製品のデザイン、製造及び販売を行うA社が、有名ファッションブランドであるB社に対し、B社がA社の商品の形態を模倣した婦人用コートを販売したとして、損害賠償として約6,900万円の支払いを求めた事案があります。東京地裁は、A社商品とB社商品には多数共通点があり、フードの立体感や生地の質感等に若干の相違はあれどその違いは大きいものではなく、一般的な消費者が違いを直ちに認識できるとまではいえず、当該行為は形態模倣商品の提供行為に当たるとして、損害賠償(約1,000万円)を命じました。

本事例で問題となった「商品形態模倣」は、前項で述べたとおり本改正によってその対象範囲が広げられましたので、EC事業者は特に注意が必要となります。具体的な対応策について次項に解説します。

法改正を受けてEC事業者が注意すべきポイント

メタバース活用の際に「模倣商品の取扱い」に注意

上述のとおり、今回の改正では、ネットワークを介して行われる形態模倣商品の提供行為も不正競争として捉えることができるとされました。(法2条1項3号)
例えば、あるリアル空間の製品がデジタル空間のアイテムで模倣された場合や、デジタル空間のアイテムが別のデジタル空間のアイテムで模倣された場合等にも、商品形態模倣として差止・損害賠償の対象になり得ることになりました。(参照:経済産業省 不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要)
自身のビジネスにメタバースの活用を取り入れていたり検討しているEC事業者は、自身の取扱うデジタル商品が、他社のリアル、デジタル、どちらの空間の商品も模倣していないことを今一度確認するとともに、社員や商品デザインの委託先等に同法の改正について周知徹底することが大変重要です。

また逆に、自社のデジタル空間の商品やリアル空間の商品が模倣され、他社のデジタル空間商品として取り扱われている場合には、不正競争防止法違反として差し止め請求や損害賠償請求ができる可能性もあります。ただし、「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については模倣したとしても不正競争とされない点には注意が必要です。(法19条1項6号イ)

なお、同法において「模倣する」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」(法2条5項)と定義されており、「模倣」といえるためには、①依拠性と、②実質的同一性が必要と理解されています。
① 依拠性:独自開発した商品が、偶然他人の商品形態と似てしまった場合は、他人の商品の形態に依拠したとはいえないため、「模倣」には該当しません。
② 実質的同一性:まったく同じ商品形態とまでいえない場合でも、たとえば、基本的な形態がきわめて類似している場合等は、「模倣」に該当する場合があります。

多額の損害賠償額が認定される可能性に注意

不正競争防止法違反による損害賠償の算定規定が拡充された点にも留意が必要です。(法5条)
不正競争防止法違反があるとして損害賠償請求をする場合、損害額の立証責任は、当該請求を行う被害者の側にありますが、同法では、従前から損害賠償額の算定規定を設けていました(法5条各項)。一般に、不正競争により生じる損害の額の立証が困難であるためです。ただし改正前は、同条の適用できる場面が限られていたところ、改正法では、同条の適用対象が拡充されました。また、損害額の算定について特許法改正と同様の手当がなされたこともあり、今後はより高額の損害額が認定されやすくなる可能性があります。

損害賠償額の算定規定の拡充
① 営業秘密について、「技術上の秘密」に対してのみ適用でき、「営業上の秘密」は対象とはならなかったが、改正後は「営業上の秘密」を含む営業秘密全般に新5条1項を適用できる
② 5条1項の対象が「物の譲渡」に限定されており、役務(サ―ビス)を提供する場合には適用できなかったが、改正後は新5条1項の対象に役務(サ―ビス)を追加
③ 被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額について、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、使用許諾料相当額として損害賠償請求できる規定を追加(新5条1項2号)
④ 使用料相当額の算定において、「不正競争があったことを前提」として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記(新5条4項)

 外国公務員贈賄罪の罰則強化

不正競争防止法では、「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」(OECD条約)に基づき、外国公務員贈賄について取り締まっています。今回の改正では、自然人及び法人に対する①「法定刑を引き上げる」(法21条4項4号、法22条1項1号)とともに、②「日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする」こととされました(法21条11項)。海外展開をしている、または計画している企業は、今一度、外国公務員贈賄に関し、外国籍の従業員を含む従業員からの報告や管理等に関する規程及び研修内容の見直し等を検討する必要があるでしょう。

なお、例えば、通関等の手続において、事業者が現地法令上必要な手続を行っているにもかかわらず、事実上、金銭や物品を提供しない限り、現地政府から手続の遅延その他合理性のない差別的な不利益な取扱いを受けるケースが存在します。このような差別的な不利益を回避することを目的とするものであっても、そのような支払自体が「営業上の不正の利益を得るため」の利益提供に該当し得るものである上、金銭等を外国公務員等に一度支払うと、それが慣行化し継続する可能性が高いことから、金銭等の要求を拒絶することが原則であり、不正競争防止法違反となる可能性があるので改めて注意が必要です。(参照:経済産業省 外国公務員贈賄罪Q&A)

まとめ EC事業の適法な運営は専門家との連携をご検討ください

不正競争防止法も時代に合わせて進化を続けています。最新の改正では、デジタル空間での模倣行為防止強化が図られ、現代のネットビジネス環境に即した対応がなされています。損害賠償額算定規定の拡充や外国公務員贈賄罪の罰則強化、国際裁判管轄規定の創設などその他の改正点についても確認し、必要な対策を取るようにしましょう。
また、将来的には技術の進化に伴い、さらなる法改正が行われる可能性もあります。EC事業者は、常に最新の法令に注目し、不正競争防止法の順守を意識しながら、持続可能なビジネスを展開していくことが重要です。特に、不正競争防止法に関する法律知識が深い専門家のアドバイスを受けることで、適切な法的対策を講じることができます。また、ECサイトを運営する際に発生しうる不正競争問題に対して、事前に対策を講じるためのリスク評価やコンプライアンス体制の整備にも専門家の助言が役立ちます。適切な法的サポートを活用することで、予期せぬトラブルを未然に防ぎ、安心してビジネスを運営できる環境を作り出しましょう。不明点はお気軽にお問い合わせください。

「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
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※本稿の記載内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。EC企業からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行っている。
また、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」