ライブコマースで守らないといけない3つの法律
目次
注目を集めるライブコマース
今、EC業界でライブコマースが大きく注目を集めています。
ライブコマースとは、ライブ配信とECを組み合わせた販売手法です。配信者はライブ配信で商品を紹介して、視聴者がリアルタイムでコメントや質問を行い、そのまま商品を購入できます。
では、なぜライブコマースが大きく注目を集めているのでしょうか。それは、これまでのECにはない以下の特徴があるからです。
- 視聴者はECサイトの紹介文や写真だけではわからないこと、気になることをその場で配信者に質問して確認できる
- 配信者に頼めば、商品の裏側や細部などを写してもらったり、実際に使ってみてもらうことができて、自分で店頭で手にして確認するのに近い体験ができる
- 視聴者は自分で質問をしなくても、他の視聴者と配信者のやりとりを見て参考にすることができる
- 視聴者は自分のコメントに配信者が反応してくれることで、ライブ感、一体感が高まる
これらの特徴から、ライブコマースは通常のECと比べて顧客(視聴者)が商品を購入する確率が高いといわれています。
誰が契約する相手になるのか整理しないといけない
ライブコマースと一口に言っても、大きく分けて2つのパターンがあります。
- メーカーや販売代理店が自社のECサイトやライブコマースプラットフォーム上でライブコマースをするパターン
- インフルエンサーがプラットフォーム上でライブコマースをするパターン(※)
(※)インフルエンサーには固定金額の報酬や販売額に応じた成果報酬が支払われます
1と2とでは、視聴者(顧客)が契約(売買の取引)する相手(売主)が異なることに、注意が必要です。
1の場合、視聴者が契約する相手は、当然ながらメーカーや販売代理店です。
一方で2の場合、視聴者が契約する相手は、インフルエンサーの場合もあれば、メーカーや販売代理店の場合もあります。
というのは、もしインフルエンサーが販売代理店と同じように、メーカーから商品を仕入れて、それを視聴者に転売しているなら、視聴者が契約する相手はインフルエンサーになります。
ですが、インフルエンサーがメーカーや販売代理店から委託を受けて、視聴者に商品を紹介しているだけなのであれば、インフルエンサーはあくまでも紹介者にすぎません。視聴者が契約する相手は、メーカーや販売代理店となります。
ちなみに最近では、ライブコマースのプラットフォーマーが、ライブコマースに取り組みたいメーカーとインフルエンサーとのマッチングを行うサービスを提供するケースもあります。
その場合、メーカーがインフルエンサーと直接契約するパターンと、プラットフォーマーと契約する(プラットフォーマーがインフルエンサーに業務を再委託する)パターンがあります。
このように、ライブコマースでは、登場人物が複数存在するため、誰と誰が何の契約を結ぶのか、そもそも誰が契約相手となるのか、混乱しがちです。この点をきちんと整理しないと、思いもかけずに自分が契約上の責任を負うことになりかねないので、注意して下さい。
ライブコマースで守らないといけない3つの法律
では、これからライブコマースを始めるにあたって、何か守らないといけない法律があるのでしょうか。
この点、ライブコマースに特化した法律はありません。まだまだ新しいビジネスですし、今ある法律でも現状はさほど問題がないからです。
今ある法律で、ライブコマースに関連して守らないといけない法律としては、主に3つあります。
1.特定商取引法、2.景品表示法、3.民法、です。
特定商取引法では「広告表示」と「返品」に注意
特定商取引法は、通信販売や訪問販売など、消費者トラブルを生じやすい特定の種類の取引を対象に、トラブル防止のルールを定め、公正な取引を実現するための法律です。
広告表示
この特定商取引法の第11条で、ECの事業を行う場合に、取引の条件等についてトラブルになることを防止するため、取引の条件や販売者に係る情報の広告表示が義務付けられています。
広告表示をする必要がある事項は、以下のとおりです。
- 商品の価格(送料についても表示が必要)
- 代金の支払い時期、方法
- 商品の引渡時期
- 売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(その特約がある場合はその内容)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 事業者が法人であって、ネット上で広告をする場合には、事業者の代表者またはCE事業の責任者の氏名
- 申込みの有効期限があるときには、その期限
- 価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容およびその額
- 商品に隠れた瑕疵がある場合に、事業者の責任についての定めがあるときは、その内容
- ソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
- 商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件
- 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件があるときには、その内容
- 請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
- 電子メールで広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス
返品
次に、toCの契約(消費者向けに商品を販売する)の場合、法律上、消費者保護のために、顧客が注文をキャンセルして返品を求めることができる制度がいくつか存在します。
その中の一つが、特定商取引法の第15条の3に定められた、どんな理由であっても、商品が届いてから8日間以内までであれば、送料を消費者負担で返品できるという制度です(クーリングオフとは違う制度です。)。
もっとも、店舗側が返品に関して特約を定めている場合は、その特約が上記制度よりも優先します。例えば、「不良品以外の返品はできません」と定めれば、それが有効になります。
ただし、この特約を有効にするためには、消費者が一見して認識できる仕方で表示する必要があります。上で解説した広告表示の4が、この特約のことです。
以上のとおり、ライブコマースで商品を販売する際は、商品の販売ページの表示が特定商取引法に対応していないといけません。
景品表示法では「優良誤認表示・有利誤認表示」に注意
景品表示法とは、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを規制するとともに、景品類の最高額を制限することなどにより過大な景品類の提供を防ぎ、消費者が良い商品を合理的に選べる取引を実現するための法律です。
この景品表示法の第5条で、「優良誤認表示」と「有利誤認表示」が禁止されています。
「優良誤認表示」とは、商品の品質や性能について、実際よりも「著しく優良」だと誤解させる表示です。例えば、実際は海外産の低品質肉を使っているのに、「最高品質和牛を使っています!」と表示することです。
一方、「有利誤認表示」とは、商品の価格や取引条件について、実際よりも「著しく有利」だと誤解させる表示です。例えば、実際は相場よりもむしろ高いのに、「業界最安値を実現!」と表示することです。
いまいち違いがわからないかもしれませんが、ようは、著しい誇大広告は禁止、ということです。
この「著しい」というのがポイントでして、営業トークというものは、多少なりとも大げさになることは当り前で、消費者側も、それを割り引いた上で聞いています。そのため、「著しい」ものでなければ、違法とまではなりません。
ライブコマースでは視聴者を盛り上げるために営業トークが行き過ぎることもありますが、「著しい」誇大広告にならないように、注意しないといけません。
民法では「契約不適合責任」に注意
2020年4月に民法が改正され、新たに民法第562条で契約不適合責任という売主の責任が定められました。
「契約不適合」というのは、売り渡された商品が、種類や品質の点で契約内容と違っていたり、数量が不足していたことをいいます。契約不適合責任は、商品にこのような契約不適合があった場合に、売主が買主に対して負う責任に関する制度になります。
契約不適合責任によって売主がどのような責任を負うか、逆に言えば買主がどのような請求ができるかというと、損害賠償を請求したり、契約を解除したり、商品の修補や代替物の引渡しを請求したり、代金の減額を請求することができます。契約不適合責任は、買主保護のために、売主に重い責任を負わせているのです。
とはいえ、契約不適合責任の内容は、規約に定めるなどにより、ある程度は制限することはできます(toCの契約では、消費者保護のために、契約不適合責任を全部免除することはできません)。
以上のとおり、ライブコマースで商品を販売する際は、契約不適合責任という重い責任を負うことになることを念頭に置いた上で、法に違反しない有効な範囲で責任内容を制限することも検討する必要があります。
まとめ
ライブコマースはこれからますます市場が拡大することが期待されています。
今回解説したポイントを押さえて、ぜひライブコマースに取り組んでみて下さい。