利用規約に関する民法の新しいルール、「定型約款」とは?
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2020年4月施行の民法改正で、「定型約款」に関するルールが整備され、利用規約などの取り扱いにこのルールが適用されることになりました。EC事業者には、少なからず影響が出る部分となるため、新しいルールの内容を理解し、対策することが必要になります。この記事では、定型約款と利用規約について、EC事業者が理解しておきたい点を解説します。
約款と契約書・規約の違い
はじめに、「約款」、「契約書」、「規約」は、それぞれどういった違いがあるのでしょうか。
「約款」と「契約書」は、契約の内容を記載した書面ですが、約款は契約の「一部」であり、契約書は契約「そのもの」であるといった違いがあります。そのため、約款とは別に同意書や契約書などが作成されるというケースが多いです。対して「規約」は、各種サービスの利用規約などは、「契約書」と同等に考えられます。一方、「約款」と同様の性質をもつ規約もあれば、約款とは全く本質を異にする規約もあるなど、「規約」は、幅広く一般的に用いられている名称となります。
「定型約款」に関する民法改正の背景
EC事業者が策定し提示している利用規約は、一般的には「定型約款」にあたります。
従来、「約款」という用語は「予め契約に定められている条項」という意味で用いられてきましたが、改正民法548条の2第1項柱書により定型約款は「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されました。
民法改正前も、約款は事業者が多くの相手方との取引を想定して、一般的に使用されてきました。しかしながら、詳細な規定が延々と記載されている約款の内容をすべて読了した上で契約するということは多くの人にとっては、まれであると言えるでしょう。しかし、約款は契約の一部をなす条項であり、契約書を構成する規定そのものです。つまり、契約当事者にとって重要なものであるにもかかわらず、約款について確定的な基準や定義がない状態によって、契約に関する紛争が発生した際に、当事者双方の解釈の齟齬を招きやすいことが問題となっていました。
「定型取引」とは
「定型取引」については、同項柱書において以下のように定義されています。
① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
不特定多数の契約の相手方と同一の内容や方式で行う取引であることが要件となります。契約の相手方や個別の状況によって内容を変更する取引は、定型取引にはあてはまりません。
➁ その取引内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
取引内容の画一性は当然の前提として、画一的であることが契約の当事者双方にとって合理的であることが求められます。「合理的」とは契約当事者両方にとって、かける時間や労力を低減させられるという利益があるということです。
上記の要件を満たす「定型取引」に用いられるものでなければ、「定型約款」であると認められません。
定型約款(利用規約)の規定に拘束力を持たせる方法
これまでは、EC事業者は、利用者から利用規約の内容について同意をとってきたと思いますが、新しいルールでは、事業者が個別の条項についての合意をとらなくても、利用者が個別の条項に合意したものとみなすことができる場合があるとし、次のように定めています。
定型約款(利用規約)を契約の内容とすることに合意をしたとき
利用者が、利用規約を契約の内容とすることに同意することによって、個別の条項にも同意したとみなされ、利用者が利用規約に拘束されるということになります。実際のビジネスにおいては、「利用規約を契約の内容とすることに同意する」旨の文言を追加し、チェックボックスやボタンのクリック等で利用者に承諾してもらうという方法があります。
定型約款(利用規約)を準備した者が、あらかじめその利用規約を契約の内容とすることを利用者に表示していたとき
利用規約を契約内容とすることを示しておけば、利用規約自体を表示することは必要ないということです。利用規約の内容を表示していない場合でも、「利用規約」を「契約の内容」と同等とすることを、ECサイト上で明示しておけばOKです。利用者が明確に認識できる形で表示していれば、一方的に表示しておくだけで利用者の同意をとる必要はありません。
不当な条項は無効となる
一定の状況の場合には、不当条項であるとし、定型約款の規定が排除される場合もあります。
利用者に対して、定型約款の個別の条項に制約力を持たせることにしている代わりに、改正民法548条の2第2項は、利用者を保護するための規定となっています。
「信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」が法的拘束力を否定される対象とされており、確定的かつ具体的なものではありませんが、各取引類型において、通常の範囲を超え、利用者にとって不利に働く条項については、この規定によって無効となる可能性がありますので、注意が必要です。
定型約款(利用規約)の変更方法のルール
民法改正前は基本的に、利用規約の変更内容について利用者から何らかの形で合意をとることが必要でしたが、民法改正によって個別に利用者の合意をとらずに、利用規約の内容を変更できるルールがいくつか定められました。
利用者にとって「有利な」内容に変更する場合
「利用規約を変更すること」、「変更後の利用規約の内容」、「変更のタイミング」について、一斉メール送信やECサイト上での記載、その他の適切な方法により全ての利用者へ向けて周知することで、利用者個人の合意がなくとも、利用規約の変更は有効となります。
利用者にとって「不利な」内容に変更する場合
利用者にとって不利な変更をする場合には、改正民法548条の4第1項2号において、以下のような変更内容についての規制があります。
「契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして「合理的なものである」こと」
曖昧な内容となっていますが、利用規約による契約内容の中でも、特に重大な部分を変更してしまうと、「契約をした目的に反する」ことになる可能性があるため、合意をとらずに変更することは認められないということになります。
また、ECサイト運営において、料金改定、特に大幅な値上げになるような場合には、利用者の不利益が大きいため、利用者が契約を制約なく解約できる対応をするなど、何らかの配慮が必要になると考えられます。利用規約におけるこのような変更は想定内の事項として、利用規約策定時に、将来的な変更の可能性についても、あらかじめ定めておくことをお勧めします。
定型約款(利用規約)の内容を表示する義務
契約の前後にかかわらず、利用者から請求があった場合には、定型約款(利用規約)の内容を明確に示さなければならないため、利用規約が自社サイトに掲載されている場合には、その掲載ページを利用者に案内するなど、請求に沿って適切に対応していきましょう。
定型約款(利用規約)作成の際の注意点
全ての定型約款(利用規約)に共通する注意事項として、次の2点には最低限、注意しておきましょう。
民法・消費者契約法に基づく条項の無効に注意する
定型約款(利用規約)に主に以下に挙げられるような内容の条項が含まれている場合、民法、そして消費者契約法によって、その条項が無効となります。定型約款を作成する際には、該当する条項が含まれていないかどうか、よく確認するようにしましょう。
・相手方の権利を制限する条項・義務を重くする条項であって、信義則に反して利用者の利益を一方的に害する条項
(民法548条の2第2項、消費者契約法10条)
・事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
・事業者に責任の有無(損害賠償責任を負うかどうか)を決定する権限を付与する条項
(消費者契約法8条1項1号、3号)
・故意又は重大な過失による事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項
・事業者に責任の限度を決定する権限を付与する条項
(同項2号、4号)
定型約款(利用規約)の変更手続について明確に定める
定型約款(利用規約)の変更手続条項は、均一な取引条件を定めるという定型約款の性質に深い関係を持つため、全条項の中においても軽視できない重要な条項であると考えられます。
定型約款を作成する際は、変更手続の工程を明確に定めておく必要があります。とりわけ、利用者に不利な内容の変更を行う場合には、定型約款の中で変更についての手続が適切かつ論理的、具体的に規定されているか否かが、契約変更の法的な有効性を判定する際に重要となります。
まとめ
定型約款(利用規約)を策定する際は、自社の利用規約が改正民法において定型約款の要件を満たすかどうか、しっかり確認しておきましょう。適切な定型約款(利用規約)を策定することで、安心して事業を進めることができます。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2023年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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