ウェブサイト・アプリの制作を外注したい!効果的な契約書の内容と注意点を解説
自社ECサイトを作成したい場合に無料で利用できる「BASE」のようなプラットフォームも最近は増えてきました。自社のブランドイメージに合わせて少しデザインにこだわったホームページを作りたい場合や、アプリの制作をしたい場合には、専門の制作会社に外注することも多いと思います。
今回はウェブサイトやアプリ制作を外注する場合の契約書に定めるべき基本的な内容と注意が必要な点を解説します。
よくあるトラブルの例
イメージと違う
ホームページやWEBサービス、アプリを制作会社に外注する場合、全然違う物が出来上がってきたなど、思っていたものと違うというトラブルは非常に多く聞く話です。
依頼者側のイメージする内容や要望が、発注する前に具体的に伝えられていないと、完成した段階で、思っていたものと違う、という事態が起こり得るのです。
納期までに納品されない
他によくあるトラブルの例としては、サイトやアプリが納期までに完成しないというものです。修正が必要な場合、多く時間を要することもありますが、通常は、開発を依頼したサイト・アプリのリリースの時期を計画しているため、いつまでたっても完成しないということでは、運営スケジュールに間に合わず、トラブルへと発展するケースがあります。
バグなどの修正が出る
開発を依頼したサイトやアプリが納品はされたものの、指定した仕様と全く違う、または、バグが多すぎて使えない、というトラブルも散見されます。
著作権に関して
基本的には、制作したサイトやアプリが著作物と認められる場合、その著作権はこれを制作した受注者に帰属することになります。この場合、受注者の許可なく、大幅に改変する、機能追加を行うなどすると著作権侵害となってしまう可能性があり、自社の求める仕様に改変を加えたい発注者側にとっては、障害となってしまう事態も起こり得ます。
対応方法
制作したいサイト・アプリの内容を明確にする
発注者側は、サイト・アプリの目的は何なのか、どのような画面にしたいのか、どのような機能がほしいのか、といった要望を具体的に伝え、仕様書などの形で、制作したいサイト・アプリの内容を、書面として明確に残しておくということが重要です。
納期の確定をしておく
納期の記載がない契約書は意外と多いため、いつまでに完成する、という納期を契約書で明確にしておいた方がよいでしょう。受注者側から納期の記載がない契約書が提示されたら、納期を入れてもらうと安心です。
また、納期を定めていても、その納期が遅れ、納品されないということもあります。そのような場合に備え、代金は納品されたときに支払うということで後払いにする、もしくは、一部のみ契約締結時に支払い、残りは納品がされてから支払うというように、代金の支払い時期を分ける事を交渉してみても良いでしょう。もし、代金を先払いしておくと、代金だけ支払ってしまって結局納品を受けられず、大きな損害が出てしまう可能性もあるため十分注意が必要です。
バグなどの不具合の修正に関して
開発を依頼したサイトやアプリが納品はされたものの、バグが多すぎて使えない、というトラブルも散見されます。このような場合に備えて、不具合が生じた場合の対応について定めておきましょう。
法律上では、これを「契約不適合責任」といい、契約書で定めていなくても、法律に則って請求することもできます。ただ、法律上は、契約不適合を知った時から1年以内に受注者に通知すれば、修補を請求できるものとされていますが、契約でこれより短い期間、たとえば3ヶ月などと定めれば、期間は3か月間に限定されます。契約書で、法律より不利になっていないかどうかも確認した方がよいでしょう。
制作物の著作権に関する取り決め
発注者側としては、制作物をビジネスで展開する上でウェブサイト・アプリの著作権の譲渡を受けておくと将来的に自由な変更を加えることができます。具体的には、以下のような取り決めを定めておくと良いでしょう。
①納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、発注者が受注者に対して代金を完済したときに、受注者から発注者に移転する。
②受注者は、前項により著作権が移転した納入物に関し、発注者に対し著作者人格権を行使しないものとする。
上記①うち、著作権法第27条及び第28条の権利は、「翻案権」、「二次的著作物利用権」などといい、ウェブサイト・アプリのコンテンツを改変する権利や、改変後のウェブサイト・アプリを利用する権利です。著作権譲渡の契約において、これらの権利の譲渡が明記されていない場合には、譲渡の対象には含まれていないものと推定されます(著作権法第61条第2項)。ですので、これらの権利も譲渡の対象になるということを明記しておく必要があります。
上記②の著作者人格権というのは、著作権法第18条~第20条に定められている権利で、著作物を公表するかどうかを決める権利(公表権)、著作物に著作者名を付すかどうか等を決める権利(氏名表示権)、著作物の内容等を著作者の意に反して改変されない権利(同一性保持権)などをいいます。著作者人格権は、著作権とは別の権利で、他人に譲渡することはできないとされていますので、①により著作権を譲渡してもらったとしても、著作者人格権は、著作者である受注者側に残ってしまいます。そうすると、制作したホームページやアプリを自社のビジネス上自由に利用することの障害になってしまう可能性があるので、著作者人格権を行使しないという条項を入れておく必要があります。
業務委託契約書でチェックするべきポイント
作業範囲の定義
作業範囲とは、例えば制作会社にホームページ制作の作業を依頼する場合、具体的にどのような作業を依頼するのかを定めたものです。この部分をしっかりと定義せずに契約してしまい、ホームページ制作の公開の手配をお願いしたが、「契約の作業範囲外」だと言われてしまっても、何も反論できません。
まずは、依頼する作業範囲について、明確かつ具体的に定義することが必要です。
再委託
再委託そのものが悪いわけではなく、制作会社同士で組んで制作チームを作る場合もありますが、この再委託を自由に認めてしまうと、「デザインはA社が担当していて、コーディングはB社が担当していて、機密情報が含まれているのに、知らない間に外部の別会社が自由にアクセスできるようになっていた」というようなトラブルが起こりえます。再委託を認める場合は「委託者の書面による承諾を得た場合に限る」とし、「第三者に業務の全部または一部を委託する場合、当該再委託先の行為について一切の責任を負うものとする」など再委託先の管理責任について記載することが必要です。
検収
検収とは、納入品が発注者側の注文した仕様どおりであるか否かを検査することです。制作会社からの契約書には「制作会社からの確認依頼通知の送信後◯日以内に制作会社宛への連絡が無い場合は、制作物の内容が承認されたものとする。」などの記載が多いかと思いますこの「◯日以内」が、発注者側としては対応が可能な合理的な日数になっているか確認するとよいでしょう。
契約不適合責任
システム開発においては、単純に「バグ=契約不適合」とすることはできないと考えられています。すなわち、システムというものは極めて複雑なものであるため、いかにテストを行ったとしても、バグを完全に防ぐことは不可能であり、このようなシステムの特徴から、バグが発見された後に、ベンダーが遅滞なく補修を終え、またはユーザーと協議のうえ相当と認める代替措置を講じたときは、バグの存在をもってプログラムの欠陥(契約不適合)と評価することはできないと考えられています(東京地裁平成9年2月18日判決・判タ964号172頁)。
民法上では、契約不適合責任は、契約不適合を知った時から1年以内とされていますが、制作会社との契約によっては3ヶ月以内や半年以内と定められていることがあります。
複雑な機能を持ったECサイトなど、システム的な要素が含まれるホームページについては、できるだけ長めに期間を定めておいた方が安心なのですが、制作会社と協議の上、妥当な期間を見つけることが大切です。
著作権
発注者側としては、納入品の著作権が、発注者側に帰属するようになっているかチェックすると良いでしょう。制作会社の実績として使って欲しくない、または外部に情報を出したくない等の場合には、適宜制作会社と協議することが必要です。一例として、「制作会社の実績として、パンフレット等で利用する分には公開して可」などという制限を設けている会社もあります。
損害賠償
損害賠償に関する条項は、ほとんどの契約書についていると思います。損害の定義の部分は、かなり専門性が高くなってしまいますので割愛しますが、損害賠償請求額については「損害賠償額については、○条で定めた制作料金の累積限度額とする。」などの記載がある場合には、発注者側が被った損害の充分な救済がなされないおそれがありますので、注意して確認してください。
業務委託契約書の条項を修正したい時のポイント
実際に「このままで契約締結するのは難しい」という内容を見つけた場合、制作会社に文言の修正依頼を行わなければなりません。修正することによってどちらか一方に有利な内容とならないよう、双方で確認し妥協点を見つけることも大切です。
効果を変更する
上記で述べたように依頼したい範囲や条件を定めた上で、譲れない部分に対しては「~についてはできるものとする」、「~についてはできないものとする」といったように文言そのものを修正することになります。
要件を変更する
「発注側による事前の承諾がない限り~」や「受託者が書面で通知を行なった場合は~」のように、条項に対しての制限をつける記載の仕方もあります。
例外を作る
例えば「損害賠償額については第○条で定める制作料金を限度額とする。ただし、故意または重過失の場合はこの限りではない。」という形で例外の形を作っておくことで、イレギュラーな事態が発生した場合についても対応しておくことができます。
業務委託契約書のよくある形態2パターン
基本契約+個別契約のパターン
継続発注・追加発注する可能性がある場合は、一回基本契約を締結してしまえば、今後同じ制作会社に発注する場合、簡単な個別契約のみで済むため、再委託、検収、著作権などを「基本契約」にて定めてしまい、金額、作業範囲のような、その都度決まる細かな案件の内容は「個別契約」で定めるという2つの契約書を締結するこのパターンがおすすめです。
案件ごとに契約書を作成するパターン
案件ごとにその都度すべての条件を決めて契約書を作成するパターンです。1つの書類で済むのでシンプルなのがメリットですが、毎回作成しないといけない煩雑さがあります。
まとめ
本記事では、ウェブサイトやアプリを外注する場合の基礎的な流れと注意点を解説しました。業務委託契約書のテンプレートはWebサイトなどで多く公開されていますが、それをそのまま利用するよりも、サンプルを参考にしつつ自社の依頼内容に合わせて契約書を作成するとトラブルを回避しやすくなるでしょう。また、ITテクノロジーは新しい分野であるため、法律の制定が間に合わず、判断が困難となるケースも散見されています。よって、業務を外注する場合の業務委託契約書は、ここまでご説明した通り、チェックポイントに沿って確認しつつ、作成することをおすすめします。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、日進月歩で進む分野に係る法改正に対する弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしています。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2022年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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