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通販・EC事業参入

ポイントサービスを導入する場合の注意点

小売業界では、ポイントカードがないところを探す方が難しい、というくらいポイントカード制度が普及しています。顧客の囲い込みや売り上げの向上を見込み、企業も積極的に取り入れています。この流れはECサイトでも同様であり、実店舗のカード型に代わり、ポイントサービスを導入している企業が多くあります。本稿では、ポイントサービスの仕組みや導入・運用する上での注意点について解説します。

ポイントサービスとは

ポイントサービスの基本的な仕組みは、「企業のサービスを利用する状況に応じてポイントが発行され、それを顧客が貯めて、利用できる仕組み」ということになります。

ポイントサービスのメリット

ポイントサービスのメリットとしては、競合店との差別化や顧客満足度の向上につなげることができることが主なメリットになります。ポイントによって自社商品に付加価値を与え、顧客の囲い込みにつなげることができ、ポイント有効期限のお知らせなどを活用することで、顧客の再来店を促すことができることや、客単価アップなどの相乗効果を見込める点も企業側にとって有益であるといえます。

ポイントサービスのデメリット

デメリットとしては、店舗スタッフの業務量の増加や、管理の煩雑さに加えて、償還されないポイントが財務リスクになることが挙げられます。また、ポイント制度の持つ特性やデータの利用価値をうまく見出せず、せっかくの価値や機会を損失してしまっているパターンもよくみられています。そのため導入する際には、顧客への還元までの流れや運営を十分に練る必要があるといえます。

諸法令との関係

ポイントサービスには「資金決済に関連する法律」(以下、「資金決済法」といいます。)を始めとする複数の法律が関わるため、知らないうちに違法行為になってしまわないよう、正しく対応する必要があります。具体的には、景品表示法、消費者契約法等が関わりの強い法令となります。

ポイントサービスは、対価と引換えに提供されるものではない

「対価」と引き換えに、ポイントを発行する場合には、資金決済法上の「前払式支払手段」として、いろいろな規制を受けることになります。

ポイントサービスは、最高額・総額、種類や提供の方法等が制限されることがある

ポイントが「景品」に該当するケースでは、景品表示法が適用され、提供できる景品に限度額があります。利用者や来店者に対してもれなく提供する金品等の総付景品であれば、基本的に1,000円未満であれば200円まで、1,000円を超える場合は取引価額の2割がポイントの限度となります。

ポイントサービスは、利用する消費者の利益に配慮したものでなければならない

消費者契約法は、消費者にとって一方的に不利益となる規約や契約条項を無効としているため、ポイント制度を運用する際にも配慮が必要な場合があります。

例を挙げると、ポイントの有効期限については、基本的には企業が「当社所定の期間」を自由に定めることが可能ですが、利用が困難となるような短すぎる期間を設定すると、そのサービス規約が消費者契約法10条によって無効とされる可能性があります。事業者には、ユーザーの利益を考慮したルール作りが求められます。わかりやすく顧客側に誤解を招くことのない仕組み作りと、それを周知させることが大切です。

ポイントサービスに対する法的な規制

前述したように複数の法律が関係してくるポイントサービスですが、資金決済法上の「前払式支払手段」とは、どのような場合が該当するのかご説明します。

ポイントサービスの種類

一口にポイントサービスといっても複数の種類があります。ECサイトの中で、利用者が商品を購入した際にポイントを付与し、そのポイントに応じてノベルティがもらえたり、1ポイント1円分などとし、商品を値引きするもの、また、ポイントサービスの中には、アプリなどで、ポイントを購入してもらい、そのポイントを利用しアプリ内で使用できるアイテムと交換できるものも含まれます。

法的な規制を受けるサービスとはどのようなものか?

資金決済法による規制を受けるポイントサービスかどうかは、利用者が「対価」を払うかどうかによって決まります。対価を支払わせるなら、資金決済法の「前払式支払手段」に該当し、様々な規制を受けることとなります。

例外的に規制の対象とならない場合

前払式支払手段に該当するには「対価性」が必要となるので、ECサイトなどで、商品を買ってもらったら「おまけ」として、無償でポイントを発行するという場合、これは規制の対象とはなりません。また、使用期間が6か月以内に限定されているものは、対価を得てポイントを発行するとしても、例外的に「前払式支払手段」にあたらないとされています。

前払式支払手段の種類

前払式支払手段とは、現金の代わりに使える商品券やプリペイドカードなどの財産的価値のあるもので、対価を払って購入するものです。

前払式支払手段に該当する要件は、「発行者に対する代金支払いなどに使われること」、

「金額等が記録されていること」、「金額や物品・サービスの数量に応じた対価と引き換えに発行されていること」とされ、前払式支払手段は、以下の2種類あります。

自家型前払式支払手段

発行者から商品の購入やサービスの提供を受けるためにのみ使用できるとする場合、自家型前払式支払手段といいます。この場合、発行は、基本的には自由に行うことができますが、基準日(毎年3月末日と9月末日)における発行した未使用残高が1000万円を超えたときは、財務局長に「前払式支払手段の発行届出書」の届出を行う必要があります。その後も、基準日以降に未使用残高が1000万円を超えている場合には、定期的に「前払式支払手段の発行に関する報告書」を提出する義務を負います。

第三者型前払式支払手段

発行者以外の第三者から商品の購入やサービスの提供にも利用できる場合を、第三者型前払式支払手段といい、ほかの店舗でも利用できるポイントの場合これにあたります。第三者型前払式支払手段にあたる場合には、発行前に財務局長の登録を受けることが必要になります。

前払式支払手段にあたる場合に守るべき義務

上記2種類の支払い手段に共通する規制として、供託義務というものがあります。

毎年3月末日と9月末日に設定されている基準日の未使用残高が1000万円を超えるとき、その未使用残高の2分の1の額以上を最寄りの法務局に供託するというものです。供託の期限は、基準日の翌日から2ヶ月以内です。この供託義務は、企業資金に与える影響が大きいため、このような運用が自社で可能かどうか検討することが必要となります。

 

また表示に関する義務もあります。前払式支払手段を導入する事業者は、ウェブサイト内にわかりやすい方法で、以下の8事項を表示する義務があります。

  1. ポイント発行者である企業名
  2. 利用規約
  3. 利用可能な金額
  4. ポイントの有効期限
  5. 利用可能な店舗や施設
  6. 利用関するガイドライン
  7. 残ポイントに関する情報と確認方法
  8. 問い合わせ用の窓口について

なお、ポイントサービスを終了する際などには、事業者は利用者に対し、ポイント未使用分に相当する「お金」を払い戻す義務を負います。

前払式支払手段を導入し、資金決済法による規制対象となったのに規制に従わない場合、最大3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑あるいはその併科を科される可能性がありますのでご注意ください。

まとめ

ポイントサービスは、顧客を囲い込む手段であり、それによる売り上げの向上が期待できます。また、顧客とのコミュニケーション手段としても有効です。しかし、安易に導入してしまうと、会計上の手間が増え、オペレーションが煩雑になっただけで、顧客とのコミュニケーションに思ったほど効果を出せない可能性もあります。また、法的な側面から規制の対象となるのか、自社に適した運用が可能かなど、他にも様々な観点から見極める事が必要となります。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

※本稿の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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