加速するカーシェアリングビジネス、どのような法的規制があるのか?
目次
近年、マイカー人口の減少などライフスタイルの変化によって、カーシェアリングビジネスが加速しています。では、カーシェアリングビジネスには、どのような法律が関係しているのでしょうか。本稿では、カーシェアリングをビジネスとして検討する前に知っておきたい法的規制について解説します。
カーシェアリングビジネスの基本
カーシェアリングとは
カーシェアリングとは、その名のとおり自動車をシェアリングして共同で使用するものです。自動車を所有していない人でも、気軽に利用できるということで、多くの国で利用人口は年々増加しており、日本も例外ではありません。
少し前までのカーシェアリングは、それをビジネスとして行なっている事業者が保有している自動車をシェアリングするという方法が中心でした。最近では、カーシェアリングのプラットフォームなどを通じて、個人が所有している自家用自動車を自分が使用していない時間のみ貸し出せるような仕組みのサービスが増加しています。
レンタカーとカーシェアリングの違い
自動車を借りるという点では、レンタカーとカーシェアリングは類似しています。従来はレンタカーが主流でした。レンタカーとカーシェアリングの違いは、レンタカーは長時間で不定期の利用が中心となるのに対し、カーシェアリングは短時間で定期的な利用が対象となります。
またレンタカーの場合、利用者はレンタカー事業者に出向き対人で利用手続をします。自動車のカギなども手渡しで受け取り、返却の際にも同じくレンタカー事業者の元で手続をする必要があります。それに対して、カーシェアリングは、スマートフォンやICカードを利用して予約をしたり、開錠をしたりするのが可能なサービスも多く、24時間いつでも気軽に利用しやすいという特徴があります。
その他の違いとしては、レンタカーは申込をすれば、他店舗に返却することができ、旅行の片道だけ利用するなどいわゆる乗り捨てができますが、カーシェアリングサービスは基本的に自動車が置いてあった場所に返却する必要があります。
カーシェアリング事業者が運営するビジネスモデル
カーシェアリングビジネスには主に2タイプのサービスがあり、そのうちの一つはカーシェアリング事業者が運営するものです。国内の最大手にはタイムズのカーシェアであるタイムズカーがあります。近年は、レンタカービジネスを展開する大手ディーラーなども、レンタカーの一部をカーシェアリングビジネス化するなど、その競争は激しさを増しています。
カーシェアリング事業者が運営するビジネスモデルの多くは、点在する駐車場やスペースを利用して自動車の貸し出しを行っています。会員登録し専用カードを受け取っておけば、24時間いつでも店舗での手続をすることなく、自動車を利用することができます。ただし、週末に利用希望者が集中する、借りたい時間帯に空き自動車がないといったケースもあるのがデメリットといえます。
自動車を所有する個人が借りたい人に貸し出すプラットフォーム
もう一つのビジネスモデルは、個人間カーシェアリングとも呼ばれます。一般の自動車オーナーが自分が使用しない時間に自家用自動車を必要とする人に貸し出すサービスです。基本的にカーステーションなどはなく、予約や承認などはプラットフォームを活用し、アプリなどで借りたい人とやり取りをします。この場合、カギの受け渡し等は、対面で行われることになります。
国内ではAnycaやGO2GOをはじめ、さまざまな企業が参入しています。
個人間カーシェアリングの仕組みは、まずカーシェアリングを仲介する会社に登録します。そして、利用の依頼が入れば、決められた日にオーナーは自分の自動車を提供します。利用者がプラットフォームに対して利用料金を支払うと、手数料を除いた利用料金を報酬として受け取ることができるというものです。
この場合、万が一事故が起こった際の対応や、利用前・利用後の自動車の汚れなどでトラブルに発展するケースもあります。登録・利用する際には、プラットフォームの利用規約をしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
カーシェアリングビジネスに関連する法律
道路運送法第80条1項(有償貸渡し)
カーシェアリングビジネスに関連する法律としては、道路運送法第80条1項(有償貸渡し)が挙げられます。これは、「自家用自動車は、国土交通大臣の許可を受けなければ、業として有償で貸し渡してはならない。ただし、その借受人が当該自家用自動車の使用者である場合は、この限りでない。」というものです。
これは、いわゆるレンタカー事業を想定した規定ですが、カーシェアリング事業者が運営するビジネスモデルにも適用されます。もともと、このような事業において許可制を定めたのは、レンタカー事業の適正と車両の安全性を確保するためであると考えられます。
規制の対象となるかどうかの基準(要件)
カーシェアリングビジネスにおいて、道路運送法第80条1項(有償貸渡し)が適用されるかどうかの要件は下記の3点全てに該当する場合です。
- 業として
- 有償で
- 貸し渡す
規制の対象となれば、国土交通大臣の許可を受ける必要があります。
個人間でも「業として有償で貸渡す」に該当すれば法的規制を受ける
「業として」とは、反復継続の意思をもって行うことをいい、個人間のカーシェアリングにおいては、貸す側は、通常、何回も貸し出すことを想定していますので、「業として」に相当する場合が多いと考えられます。また、何らかの対価を得て行われることになるでしょうから、「有償で」、「貸し渡す」ということになり、レンタカー事業に該当する可能性が高いと考えられます。結果、通常の個人間でのカーシェアリングは、レンタカー事業を行っているものとして、自動車を貸す側が許可を受けなければならないということになります。
しかし、自動車を所有する個人が借りたい人に貸し出すカーシェアリングビジネスにおいて、国土交通大臣の許可を受けているケースはほぼないと考えられます。その代わりに、プラットフォームを利用して個人間でシェアリング行っている場合は、以下で解説する共同使用契約に基づいていると考えられます。
知っておきたい共同使用契約
共同使用契約
カーシェアリングビジネスを展開する上で知っておきたいのが、共同使用契約です。共同使用契約は、プラットフォームを活用して個人間でカーシェアリングを行うビジネスモデルにおいて利用されています。
カーシェアリングプラットフォームでは、共同使用契約について以下のように解説しています。
共同使用契約とは、個人間において同一の自家用自動車を共同で使用するための契約であり、 共同使用契約を締結した当事者は、共同使用契約のもと互いに誠実に、共同して同一の自動車を管理・使用するものとします。プラットフォームを通じて自動車を利用すると、利用者は自己の使用の割合に応じて必要経費を按分して負担します。レンタカーサービスのように、有償でクルマの貸し借りを行うものではありません。許可なく業として自家用自動車を有償で貸渡をした場合は、個人であっても有償貸渡規制への違反となります。そのため、共同使用契約を締結する際には、契約内容を確認のうえで、自らの判断で締結してください。 |
また、共同使用契約の契約期間については、オーナーがドライバーからの予約リクエストを承認した日から、6ヶ月以上と設定しているプラットフォームの利用規約も多いようですが、プラットフォームによっては、6ヶ月・12ヶ月といったように選択できるケース、6ヶ月を超えると3ヶ月ごとに自動更新等となっているケースもあります。
共同使用契約の法規制は?
自動車の共同使用に関しては、2006年の道路運送法改正まで許可制とされており、国土交通省の許可が必要でした。しかし、法改正により許可制が廃止されたため、実質的に無許可で行うことができるようになりました。そのため、現在多くのカーシェアリングのサービスプラットフォームの利用規約において、共同使用契約という形式がとられています。
カーシェアリングビジネス市場の今後
カーステーションや車両数の増加、ライフスタイルの変化による自家用車所有率の低下などの原因によって、カーシェアリングビジネスはますます加速してきているといえます。富士経済が2019年2月に発表した「自動車関連インフラシステム/パーキング&シェアサービスの市場予測」によると、カ―シェアリング市場は2017年の約29億円から2018年は36億円と124%まで拡大、さらに2030年は2017年に比べ9倍となる260億円まで拡大することが予測されています。
カーシェアリングのようなインフラサービスは、規模のメリットが作用する事業であるといえます。カーステーションや車両数、プラットフォームへの登録者数が増加すればするほど、ユーザーの利便性は高まり利用者も増加していくでしょう。また、市場規模だけでなく、サービスの多様化にも注目が集まっています。利用できる車両タイプの拡大や、カーシェアリング事業者同士の連携によって、サービスはさらに便利になっていくでしょう。
一方で、法整備がまだ整っていないことが問題となっています。事故や個人間でトラブルが起きたときにどのように対応していくのかなど、問題は山積みであるといえます。法整備がまだ追いついていないため、いざというときの危険性をはらんでいるサービスであることは否めません。市場の拡大に伴い、今後新たな法律の制定なども進んでくるでしょう。同時に、カーシェアリングのビジネスモデルに特化した保険商品などの登場も期待されます。
まとめ
このように、カーシェアリングビジネスには、法律として道路運送法第80条1項が関連しています。しかし、個人間で行われるカーシェアリングプラットフォームの場合、共同使用契約を締結するというスキームを採用することで、国土交通大臣の許可は不要であるという形態が現在は主流となっています。今後、カーシェアリングビジネスが加速するにつれ、新たな法整備がされることも考えられます。カーシェアリングビジネスに参入する予定があるのであれば、当事務所では、今後の法整備を見据えた法律的な対策をアドバイスすることが可能ですので、いつでもご相談ください。
※本稿の内容は、2021年7月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所