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ウェブサイト法務・広告チェック

EC事業者がフリー素材を安全に利用するためのガイド|リスク回避策

ECサイト運営では、初めにサイトデザインを作るときに加え、クリスマスなどの季節商戦や、個々のキャンペーン・イベントごとに、デザイン業務が発生する場合が多いと思います。そのなかで、フリー素材の利用を検討されているEC事業者の方も多いのではないでしょうか?フリー素材は、ウェブサイトの制作やデザイン作業で手軽に利用できる点が魅力ですが、利用には注意点があります。それは著作権侵害の問題です。知らず知らずのうちに著作権侵害にならないように、適切な対応方法を確認することで、無用なトラブルを避けることができます。今回はフリー素材を利用する場合に事業者側が気を付けるべき点を解説します。

フリー素材とは何か?

フリー素材とは、一定の条件のもと、無料または少額の費用で利用できる画像、動画、音楽などのデジタルコンテンツを指します。フリー素材には種類があり、それぞれ特徴があります。まず、フリー素材の種類とその定義について詳しく見ていきましょう。

フリー素材の種類

フリー素材には様々な種類がありますが、大きく分けると以下の二つが挙げられます。
第一に、著作権者が利用許諾を与えた素材です。このタイプのフリー素材は、著作権者が特定の条件のもとで利用を許可しているものです。多くの場合、利用者は利用規約を守ることで、無料または少額の費用で素材を利用できます。CC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンス(著作権者が、自分の作品に対して一定の権利を保持しながら、利用者に使用許可を与えるライセンス)によるものや、特定の利用規約(フリー素材サイトや個別の著作権者が独自の利用規約を設定)に基づいて提供されるものが代表的です。
第二に、公共の所有物として扱われるパブリックドメインの素材です。これは、著作権保護期間が終了した素材や著作権者が権利を放棄した素材で、誰でも完全に自由に利用することが可能です。「著作権フリー」の素材とも呼ばれます。しかし、利用に際して、著作権以外の権利(知的財産権や肖像権など)へは配慮が必要です。

フリー素材利用のメリット

フリー素材を利用する最大のメリットは、コスト削減です。特に中小企業や個人のウェブサイト運営者にとって、無料で高品質な素材を利用できることが大きな魅力となります。また、プロフェッショナルなクオリティの画像や動画を手軽に手に入れることができるため、ウェブサイトの見栄えを格段に向上させることが可能です。
さらに、フリー素材を使用することで、コンテンツ制作の時間を大幅に短縮できます。自分で撮影やデザインをする手間を省け、その分を他の業務に充てることができます。また、多くのフリー素材サイトはカテゴリーやキーワードで素材を分けて検索しやすくしており、目的に合った素材を素早く見つけて使用することが可能です。

フリー素材の利用における一般的なリスク

フリー素材の利用には多くの利点がありますが、同時にいくつかのリスクも伴います。これらのリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。以下に、フリー素材を使用する際に注意すべき一般的なリスクを紹介します。

著作権侵害のリスク

フリー素材を使用する際に最も注意すべき点は著作権侵害のリスクです。無料で利用できる素材でも、著作権フリー以外の多くの場合には著作権が存在します。そのため、利用規約をしっかり確認し、許可された範囲内で利用することが大切です。著作権侵害が発覚した場合、高額な賠償金が発生するリスクがあるため、必ず信頼できるサイトから素材を選び、著作権に関する理解を深めることが重要です。

肖像権侵害のリスク

フリー素材には人物が写っている写真や動画も多く含まれていますが、これらを使用する際には、肖像権侵害にも注意が必要です。肖像権とは、個人が自身の肖像を無断で使用されない権利のことであり、正式な許諾が得られていない素材を利用するとトラブルになる可能性があります。素材詳細やダウンロードページなどで、モデルリリース(肖像権使用同意書)の確認を怠らないようにしましょう。

商標権侵害のリスク

商標権侵害も、フリー素材利用時のリスクとして注意が必要です。商標とは、商品やサービスを他と区別するための標識であり、登録された商標については権利が保護されています。特定のブランドロゴや商標が含まれる素材を無断で使用すると、商標権侵害に該当する場合があります。

リスク回避のために最も重要なことは?

上記で挙げた著作権侵害などのリスクを回避するためには、第一に「利用規約」を確認することが重要です。

利用規約の確認

利用規約には、フリー素材の使用条件や制約が詳細に記載されているため、これを理解し遵守することが重要です。多くのフリー素材サイトでは利用規約が明確に表示されていますので、ダウンロード前に必ず確認することがリスク回避に繋がります。

許可されている使用範囲=利用制限

利用規約で、許可されている使用範囲=利用制限について正確に把握しましょう。フリー素材の多くは、個人利用や非商用利用が許可されている一方で、商業利用や再配布に制限がある場合があります(次項に解説します)。したがって、可能な使用範囲を確認し、使用目的に合った素材を選ぶことが重要です。許可されている範囲を超えて使用すると、フリー素材の著作権侵害となります。

利用規約のチェックポイント

利用規約では、上記で触れた利用制限など、以下のポイントをチェックするようにしましょう。

その他、解像度により有償・無償が変わったり、●●での利用は禁止、といったように、個々のサイトでそれぞれ独自の条件を設定していることもあります。著作権侵害等のリスクを避けるため、利用規約は全てよく確認することが大切です。

リスク回避のためのその他の対策

利用規約を確認する以外に、リスク回避のためにはどのような対策があるでしょうか。

信用できるサイト選び

フリー素材を使用する際の注意点として、まず重要なのは信用できるサイトを選ぶことです。インターネット上には多くのフリー素材サイトがありますが、すべてが著作権や利用規約を明確にしているわけではありません。また、なかには、著作権者から権利取得せずに勝手に自社サイトにフリー素材として掲載する悪質なケースもあります。万一そうした素材サイトから、フリー素材と思い込んで素材をダウンロードし利用した場合、後に真の著作権者から著作権侵害を訴えられる可能性があります。著作権侵害のリスクを避けるためには、信頼性の高いサイトを利用することが不可欠です。例えば、Adobe StockやShutterstockといった有名な素材サイトは、利用規約が明確で、法的にも信頼できる資源を提供しています。

利用履歴の記録

次に、フリー素材の利用履歴をしっかりと記録することも大切です。これは、万が一著作権侵害などの問題が発生した際に、適切な対応を取るための証拠となります。使用した素材の出典元や取得日時、利用条件などを詳細に記録しておくことで、リスクに備えることができます。
例えば、Excelシートや専用の管理ツールで利用状況を整理することで、後で簡単に確認することができます。また、素材のダウンロード履歴やダウンロード画面のスクリーンショットを保存しておくことも有効です。さらに、トラブルとなった後に利用規約を書き換えられるリスクもあるため、自身が利用した時点での利用規約を保存しておくことも対策の一つとして考えられるでしょう。

フリー素材の代替案

では、フリー素材の代替案にはどのようなものがあるでしょうか。

オリジナル素材の作成

一つの方法として、オリジナル素材の作成があります。オリジナル素材の作成は、著作権や肖像権、商標権侵害のリスクを大幅に減少させることができます。また、独自のデザインや写真、グラフィックを使用することで、コンテンツの独自性やブランドイメージを強化することができるため、閲覧者へのインパクトも大きくなります。

ライセンス購入の考慮

もう一つの有効な代替案として、ライセンス購入があります。有料の素材やコンテンツには、一般的に、詳細な利用規約が明示されており、権利処理が適切に行われているため、著作権侵害やその他のリスクを大幅に減少させることができます。また、ライセンス料を支払うことで、より高品質な素材を利用することができ、ウェブサイトやその他のコンテンツのクオリティを向上させることができます。

フリー素材利用の成功と失敗事例

フリー素材を正しく利用することで、ウェブサイトの魅力を大いに高めることができますが、一方で著作権侵害や肖像権侵害などのリスクもあります。フリー素材の利用に関する成功と失敗の事例を紹介します。

成功事例:

ある企業は、フリー素材の画像を利用してウェブサイトを美しくデザインし、多くのユーザーから高評価を得ることに成功しました。この企業は、利用規約をしっかりと確認し、許可された範囲内で素材を使用することによって、リスクを避け、安全にフリー素材を活用しました。

失敗事例:

  1. 利用規約の確認不足
    学校の配布物やホームページに掲載したイラストに著作権侵害があったとして、作者に損害賠償を支払うこととなった事例があります。イラストを利用した教諭はフリー素材を謳ったサイトからのダウンロードであり、利用は無料であると思い込んでいたと主張しましたが、著作権者からの訴えを受け第三者が利用規約を調べたところ、使用料が発生する旨が明記されていました。フリー素材を利用する際は、利用規約をしっかりと確認することが重要であることが分かります。
  2. 利用履歴の記録が無い
    大手素材ダウンロードサイト運営企業が、自社が運営するダウンロードサイトに掲載する画像を、無断で被告の事務所ウェブサイトに掲載されたとして、損害賠償を請求し、裁判所に認められた事例があります。被告は、ウェブサイト上のフリー素材を使用したものであり、当該大手素材ダウンロードサイトに著作権があると知らなかったので、過失がなく、損害賠償は認められないと主張しましたが、どの素材サイトから、いつ、素材を取得したのかについて全く主張ができなかったことから、裁判所にはこの主張は認められませんでした。フリー素材を利用する際には、その素材の著作権について可能な限り調査し、利用履歴をしっかりと保存しておくことが重要であることが分かります。

まとめ

フリー素材を利用する際には、必ず利用規約を確認し、許可された範囲内での使用を徹底することが重要です。また、権利者の変更や、新たな規約が追加されたりすることもあるため、コンプライアンスの観点からも定期的な見直しが不可欠です。事前に顧問弁護士に相談することで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。フリー素材の利用に関して不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
「助ネコ」の株式会社アクアリーフ様、「CROSS MALL」の株式会社アイル様など、著名なECシステム企業が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番オススメなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。多数のEC企業様が、サービス設計や利用規約・契約書レビューなどにあたり当事務所を活用されていますので、いつでもご相談ください。

※本稿の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

 

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。EC企業からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行っている。
また、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」