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事前のチェックが大事!写り込みと著作権法の関係を解説

著作権法上、他人の著作物を権利者の許諾なく利用することは原則として禁止されています。しかし、個人がSNS上で公開したり、企業が営業活動の一環としてウェブサイトやパンフレットなどで公開する写真や映像、音声に他人の著作物が偶然写り込んでしまうことは、通常よく起こり得ることと言えます。そこで、2012年著作権法改正により、こうした場合でも一定の条件を満たす場合は違法とはならないとされ、さらに2020年の同法改正では、適法とされる行為の範囲や、適法に利用できる著作物の範囲が拡大されました。今回は、法改正の概要に触れつつ、現行法において写り込んだ著作物について問題となる場合と、ならない場合の判断指標を解説します。

写り込みとは?

写り込みとは、メインの撮影対象とは別の物や音といった著作物が、意図せずに撮影・録画・録音されてしまう問題のことを指します。

「写り込み」と著作権侵害~原則として、許諾がなければ著作権侵害となり得る行為

具体的な事例を挙げて見てみましょう。撮影した写真や映像に、著作物である何らかのキャラクターや、他人が作成したポスター等が写り込んでしまった場合、その撮影行為は、著作権法上の問題となる「複製」(著作権法21条)に当たり得る行為です。またそれをブログ等ウェブ上にアップする行為は、「複製」(著作権法21条)及び「公衆送信」(著作権23条)に当たる可能性があります。
つまり、これらの行為は、他人の著作物を許諾なく複製し、伝達する行為であり、複製権その他の著作権を侵害する(著作権法違反となる)場合があるということになります。
しかし、他人の著作物が写り込んでも、全ての場合に著作権侵害となるわけではありません。著作権法改正による「写り込み」についての規定にかかわらず、以下のように解釈されます。

著作権侵害とならない場合

「写り込み」に関する著作権法改正

前項で触れたように、改正前の著作権法においても、写り込んだからといって全てが著作権侵害にあたるわけではありませんでしたが、例えば街頭で動画撮影をしてウェブに掲載するとき、他人の著作物であるキャラクターが写り込んだり、音楽が録り込まれるといった状況は、通常良く起こり得る状況であり、その場合の多くで、著作権を侵害する可能性がありました。
しかし上記のような行為の多くは、本来の著作権者に必ずしも不利益となるとは言えず、そうした行為も全て著作権侵害とすることは、実際の社会状況に鑑みて現実的でなく、また著作権法本来の目的である「文化の発展」を阻害することになりかねません。そこで、著作権法の改正が行われることとなります。

2012年改正~初めての「写り込み」に関する規定

はじめて、いわゆる「写り込み」に関しての規定が制定されました。付随対象著作物の利用(第30条の2)の新設です。これにより、下記2つの事項が明確化されました。

(ⅰ)写真の撮影、録音又は録画にあたって、メインの被写体等から分離することが困難であるため付随した他の著作物(付随対象著作物=写り込んだ著作物)は、複製しても複製権侵害行為に当たらないこと(第1項)
(ⅱ)複製された付随対象著作物は、写真等著作物の利用に伴って利用しても侵害行為に当たらないこと(第2項)

つまり、例えば以下のような場合には、著作権者の許諾を得ることなく利用することができる。とされました。

(文化庁:いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備についてhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html より抜粋)

2020年改正~適法とされる行為の範囲や、適法に利用できる著作物の範囲が拡大

次に2020年に行われた著作権法改正では、写り込み問題に対する規定がさらに変更されました。
スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や動画投稿・配信プラットフォームの発達等の社会実態の変化に対応して、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲を拡大したものです。
具体的には、下記(ⅰ) (ⅱ) (ⅲ)のとおり、日常生活等において一般的に行われる行為に伴う写り込みが幅広く認められることとなりました。

(ⅰ)「写真の撮影」「録音」「録画」に限定されていた対象行為を、複製や伝達行為全般(例:スクリーンショット、生配信、CG化)に拡大
(ⅱ)創作性が認められない行為を行う場面(例:固定カメラでの撮影)における写り込みも対象とする
(ⅲ)メインの被写体に付随する著作物であれば、分離が困難でないもの(例:子供に抱かせたぬいぐるみ)も対象とする

一方で、従来からの付随性・軽微性等の要件は維持するとともに、新たに「正当な範囲内」という要件を規定することで、濫用的な利用や権利者の市場を害するような利用を防止しています。
(文化庁:令和2年通常国会 著作権法改正についてhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/ より一部加工して抜粋)

写り込みの適法要件

次に、写り込みが著作権侵害と判断されないための要件(改正後著作権法30条の2に該当するための要件)についてまとめます。
写真や動画撮影を行ってこれをウェブサイトにアップする等の際には、まずは写り込みがないかどうかのチェック、次に写り込みがあった場合は、下記要件を満たすかどうかを、慎重に検討する必要があります。

主たる被写体に付随して写り込んでいること

当該著作物(写り込んでしまったポスターやキャラクター等)の利用(撮影等)を目的としたものではないことを指します。

軽微な構成部分にとどまること

写り込んでしまった他人の「著作物」が、作成した映像等に占める物理的な割合や質的な影響が小さいと認められること

正当な範囲内であること

改正後は、「正当な範囲内」という要件のもとで、個別事案に応じて柔軟に判断されることになりました。
「利益を得る目的の有無」、「分離の困難性の程度」、「当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割」、「その他の要素」を総合的に考慮します。
判断材料の一例としては、著作権者から許諾を受けて対価を支払うことが可能かつ合理的かという観点が挙げられます。こうした場合には、許諾なしに当該著作物を利用(撮影等)することは、「正当な範囲内」とは言えず、本条には当てはまらないと判断される可能性があります。

著作権者の利益を不当に害さないこと

現在・将来にわたって、写り込んだ「著作物」の販路を阻害するか等の観点から、個別具体的に判断されます。

具体的な検討例

ここまでにもいくつかのケースを事例として挙げていますが、改めて一つ例にとって考えてみましょう。

設例

自社の商品の広告動画を撮影したところ、
①有名なアニメキャラクターがプリントされた服を着た人が写り込んでいたが、当該キャラクター部分を消さずに、広告動画を自社のウェブサイト等にアップした場合。
②流行している某歌手の楽曲が近くのスピーカーから流れており、録音されてしまったが、当該楽曲の著作権者に許諾を得ることなく、広告動画を自社のウェブサイト等にアップした場合。

①②ともに、当該商品や動画、写り込んだ著作物を個別具体的に検討し、判断されますが、一般的には、下記の判断となる可能性が考えられます。

写り込みの適法要件(著作権法30条の2が適用されるための要件)に照らして

主たる被写体に付随して写り込んでいること

あくまでも自社商品の広告動画を撮影したものであり、当該キャラクター・楽曲の撮影・録音が目的ではなかったので、当要件は満たすと判断される可能性があります。

軽微な構成部分にとどまること

作成した映像の長さ、画角に対して、当該キャラクター・楽曲が流れる大きさ・長さが占める割合や、質的な影響が小さいと認められれば、この要件を満たすことになります。例えば①キャラクター部分が瞬間的に大きく表示されたとしても、映像全体の尺に占める割合がわずかであれば、当要件は満たすと判断される可能性があります。②動画の初めから終わりまで、大きな音量で当該楽曲が流れている場合等は、当要件は満たさず、著作権侵害と判断される可能性があります。

正当な範囲内であること

広告動画ですので、「利益を得る目的」は有ると言えますが、これをもって「正当な範囲内」に該当しないとは判断されません。当該キャラクター・楽曲部分を分離(撮影・録音しない)することの困難性の程度、当該動画における当該キャラクター・楽曲が果たす役割の大きさ等を総合的に判断されます。本事例においては、当要件を満たし、著作権侵害にあたらないと判断される可能性があるでしょう。

著作権者の利益を不当に害さないこと

当要件についても、個別の判断とはなりますが、本事例において、例えば当該広告動画の影響でキャラクターグッズや楽曲の売上が阻害されるとは考えにくいと判断されれば、当要件は満たし、著作権侵害にあたらないと判断される可能性があるでしょう。

このように、本事例において、当該広告動画を作成し、ウェブサイトにアップする行為は、キャラクターや楽曲の著作権者の権利を侵害するものではない(著作権法30条の2が適用される)と判断される可能性はあるでしょう。
しかし、最終的な司法判断で著作権侵害に該当しないとされる場合であっても、著作権者からクレームが入るリスクがなくなるわけではありません。円滑な業務運営のためにも、写り込みについては最大限注意を払うことが重要です。

まとめ

企業の営業活動の一環として、動画や写真をインターネットにアップしたり、場合によっては生配信を行うということもあると思います。そうした際に、写り込みによって著作権者の権利を侵害することのないよう、事前に慎重にチェックすることが重要です。著作権者からのクレームはもちろん、著作権者以外の一般のユーザーからの指摘も予防し、円滑な業務運営を目指しましょう。
万一写り込みが判明した場合には、著作権者から許諾を得る必要性の有無を検討するとともに、著作権法30条の2に該当するか(当該写り込みが著作権者の権利を侵害していないか)を考慮することをお勧めします。今や手軽に行えるようになったからこそ、動画作成等にはますます注意を払う必要があるでしょう。個別具体的な不明点がございましたら、いつでもお問合せください。

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※本稿の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。EC企業からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行っている。
また、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」