在庫を持たないEC・通販サイトの配送委託は下請法の規制を受ける?
目次
直接在庫を持たず、お客様からの注文を受けた段階で外部の業者に発送を依頼する形態のEC・通販サイトが増えています。このような形態を採用している場合、配送委託は下請法の規制を受けるのでしょうか?本稿では、下請法の基本と共に解説していきます。
下請法とは
親事業者が下請事業者に業務を委託する場合、親事業者のいうことを聞かざるを得ない状況が起こり得ます。下請法とはこのような状況を防ぐため、親事業者と下請事業者間の取引を公正にし、下請事業者の利益を保護するために制定されている法律です。まずは下請法とはどのような法律なのか、見ていきましょう。
下請法の基本
下請法とは通称であり、正式名称は下請代金支払遅延等防止法といいます。下請法は、独占禁止法・競争法の一分野に該当する法律です。
2003年の法改正により、規制対象が役務取引に拡大され、違反行為に対する措置の強化が行われました。
下請法の目的
親事業者が下請事業者に業務を委託・発注する場合には、どうしても親事業者が優越的地位になってしまいます。そのため、親事業者の一方的な都合により、下請事業者に不利な条件が突き付けられることがあるのです。
そのような親事業者が一方的に優位となることを防ぎ、下請取引の公正化を図ると共に下請事業者の利益を保護する目的で、下請法が制定されました。
下請法の対象となる4つの取引
下請法の対象となるのは、以下の4つの取引です。
- 製造委託
物品の販売や製造を請け負っている親事業者が、下請事業者に物品の製造を委託する取引です。物品とは動産であり、不動産は該当しません。 - 修理委託
物品の修理を請け負っている親事業者が、修理の全部又は一部を下請事業者に委託する取引です。 - 情報成果物作成委託
情報成果物の作成を請け負っている親事業者、もしくは自ら提供する親事業者が、下請事業者に情報成果物の作成を委託する取引です。情報成果物とは、ソフトウェアなどのプログラム、映画や放送番組、設計図やポスター、デザインなどが該当します。 - 役務提供委託
役務提供委託とは、請け負った役務を再度委託する行為のことを示しています。役務の提供を本業とする親事業者が、その提供の全てまたは一部を下請事業者に委託する取引です。
このように下請法の対象となる取引には4つの形態があります(その他にも、取引を行う会社の資本金によっても、適用の有無が異なります)が、今回のテーマである、直接在庫を持たずお客様からの注文を受けた段階で外部の業者に発送を依頼する形態のEC・通販サイトの取引において問題となるのは、最後に紹介した役務提供委託です。
そのため、以下では役務提供委託について詳しく見ていきます。
役務提供委託とは
下請法2条4項 この法律で「役務提供委託」とは,事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和24年法律第100号)第2条第2項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第1項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。 |
どのような取引が役務提供委託となるのか、例を紹介しましょう。公正取引委員会が作成している講習会用のテキストには、以下の事例が紹介されています。
- ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること
- 工作機械製造業者が、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること
- カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である個人に委託すること
- プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること
他にも、役務提供委託となる取引には、
- ビル管理会社が、ビルオーナーから請け負ったビルメンテナンス業務をビルメンテナンス業者に委託すること
- 運送業者が、請け負った運送業務のうち、自社では対応しきれない一部について他の運送業者に委託すること
- 自動車ディーラーが、請け負う自動車整備のうちの一部の作業を、他の自動車整備業者に委託すること
- ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスのみを他の事業者に委託すること
このように、多くの取引が役務提供委託となります。
下請法において禁止される行為
下請法が適用される場合に禁止される行為について、EC・通販サイトでも該当する可能性のある役務提供委託に関して見ていきましょう。
- 下請代金の支払遅延
下請代金を受領後60日以内の定められた支払期日までに支払わないこと - 下請代金の減額
あらかじめ定めた下請代金を一方的に減額すること - 買いたたき
類似品等の価格または市価に比べて著しく低い下請代金を一方的に定めること - 購入強制
業務を委託する引きかえに、委託する側が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること - 報復行為
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由として、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いなどの報復行為を行うこと - 割引困難手形の交付
支払に当たり、決済の期間が極端に長い/一般の金融機関で現金化することが困難であると認められる手形を使用すること - 経済上の利益の提供要請
下請事業者に対して、金銭や労務の提供等を強いること - 不当な給付内容の変更及びやり直し
費用を負担せずに一方的な注文内容の変更/やり直しをさせること
このような行為は、下請事業者の経営状況に大きな影響を与える行為といえます。下請事業者をこのような一方的な行為から守るために、下請法が規制をしているのです。
さらに、親事業者には、手続上の義務があり、以下の行為を怠ることも下請法の違反となります。
- 書面の交付義務
- 支払期日を定める義務
- 取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存する義務
- 支払が遅延した場合は遅延利息を支払う義務
在庫を持たないEC・通販サイトの配送委託は下請法の規制を受ける?
それでは、直接在庫を持たず、お客さんからの注文を受けた段階で外部の業者に発送を依頼する形態のEC・通販サイトが下請法の規制を受けるのかについて検証していきます。
ポイントは役務提供委託に当たるのか?
直接在庫を持たず、お客様からの注文を受けた段階で外部の業者に発送を依頼する形態のEC・通販サイトの場合の業務の流れは以下のようになります。
- お客様から注文を受ける
- 在庫を持っている業者に商品の発送を依頼する
- その事業者が、運送業者に商品の発送を依頼する
- 配送業者が荷物を配送し、お客様の手元に届く
このビジネスモデルが、役務提供委託に当たるのか考えてみましょう。
下請法の規制対象にはならない
下請法の規制対象になる役務提供委託の「役務」とは、委託する側が他者に提供する役務のことをいい、委託する側が自ら利用する役務は含まれていません。
本件では、他者とはEC・通販サイトを利用するお客様になります。そして商品を運送するという業務は、EC・通販サイトを運営する側がお客様から注文された商品を郵送するためにEC・通販サイトが付随的に自ら行うものです。
よって、この場合の発送依頼は他者に提供する役務ではなく、自ら利用する役務であるといえます。他者に提供する役務でない以上、役務提供委託には該当しないと考えられます。
したがって、直接在庫を持たず、お客様からの注文を受けた段階で外部の業者に発送を依頼する形態のEC・通販サイトのビジネスモデルは、役務提供委託にはあたらず、下請法の適用を受けないと考えられます。
まとめ
以上のように、EC・通販サイトの配送委託は、現在の下請法によっては規制を受けないと考えられます。もっとも、在庫を持たないEC・通販サイトは新しいビジネス形態であるため、今後規制が追加される可能性も十分に考えられます。下請法に限らず、常にアンテナを張って、法的に問題なく、かつ収益の上がるビジネスモデルを構築していくことが大切です。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。