Alexaなどの音声ショッピングを提供する通販・ECサイトが知っておくべき法的注意点
目次
音声ショッピングを取り入れる通販・ECサイトが増えています。消費者にとっては、スマートフォンやPC画面を操作せずに買い物ができる便利なサービスですが、音声だからこそのトラブルも起こっているのが現状です。本稿では音声ショッピングだからこそ起こるトラブルや注意点について、民法改正にも留意して解説します。
音声ショッピングとはどのようなサービスか
音声ショッピングは、スマートスピーカーを通じて音声で買い物ができるサービスです。日本で音声ショッピングを取り入れている先駆けといえるのが、Amazonです。
Amazonの音声ショッピング Alexaとは
Alexaは、すでに会員登録されているAmazonユーザーの支払い設定および配送設定を利用して、AmazonおよびAmazonに商品を掲載している他販売者から買い物ができるサービスです。サービスには、通常購入だけでなく定期購入も含まれます。
Alexaを利用するためには、ユーザーはAlexaアプリ内で、音声ショッピング機能専用の音声確認コード設定などを行います。またアプリではAmazon決済購入の商品および注文内容を見ることができます。また、音声ショッピング機能を無効に設定することも可能です。ただし、一部の地域や商品は利用できないこともあり、定期購入のみ音声ショッピングに対応している商品もあります。
Amazonの音声ショッピングAlexaを利用するためには、Amazon専用のスマートスピーカーが必要です。また、そのスマートスピーカーをインターネットに接続させる必要があります。さらに、Alexaのサービスを利用するためには、有料のAmazon Prime会員である必要があります。
Alexaで実際にショッピングをする流れ
では、Amazonでの音声ショッピングはどのように行われるのか、具体的な流れを紹介します。
- Alexa対応のスマートスピーカーをインターネット接続した状態に準備します
- Alexa、〇〇が欲しいと話しかけます
- 〇〇をお探しですね?とAlexaから確認されたら、間違いなければ、はいと答えます
- Alexaが該当する商品名の候補・Amazonでの価格・お届け予定日を伝えた上で購入するか確認します
※アプリで確認コードを設定している場合は、ここで確認コードをAlexaに伝えます - 注文が送信され、価格とお届け予定日を再確認されます
このように、事前に簡単な設定さえ済ましておけば、全くスマートフォンやPCを操作することなく購入を完了させることができます。新規注文以外にも、前に買った〇〇が欲しいなどのさまざまな要望にも対応してくれます。
音声ショッピングによくあるトラブル
とても便利な音声ショッピングですが、音声だからこそのトラブルも発生しています。ここでは、どのようなトラブルが起こっているか紹介します。
商品画像を確認していないことによる誤注文
音声ショッピングは、スマホやPCの画面を見ることなく注文が完了します。そのため、具体的な色や形状について把握しないまま注文し、届いたらイメージと違っていたというトラブルが発生しています。
確認不足による誤注文
音声ショッピングでよくある誤注文の一つに、確認不足によるものがあります。中でも特に目立つのが注文数の間違いです。意図した数以上の商品が届くトラブルも起こっています。
誤操作などユーザーの意図しない注文
スマートスピーカーの誤作動により、意図しない注文をしてしまったというトラブルも発生しています。購入をやめるといったのに、なぜか注文されてしまっていたケースや、注文の途中で子供の声などに反応してしまい意図しない商品まで注文してしまうケースが発生しています。アメリカでは過去に、テレビニュースの音声を実際の注文と勘違いしてしまい、多くの家庭に同じ商品が大量に送られてしまった事例もあります。
注文したと思ったのに注文確定していない
注文したつもりの商品が何らかの理由で注文確定まで進めておらず、注文できていなかったということもあります。
うまく注文できない
音声ショッピングは、音声だからこそスマートスピーカーに上手く注文したい商品の内容が伝わらないことがあります。具体的には下記のようなケースが考えられます。
・英語が通じないことがある
・長い本のタイトルなどは商品名として聞き取れない場合がある
音声ショッピングの誤注文に対する法的な考え方
契約成立の基本原則について
契約の成立や無効になる場合のルールは、音声ショッピングであっても、従来と基本的に同じです。売買契約では、買主が商品を買いたいという意思表示を行うことで申込みとなります。そして、売主が申込された商品を売るという意思表示をして承諾することになります。このように、買主と売主の意思が合致してはじめて売買契約が成立することになります。
誤注文は取り消される場合がある
では、間違えて注文してしまった場合、売買契約は成立しているといえるのでしょうか。形式上は、申込と承諾があるため、売買契約は一応成立することになりますが、それでは何らかの理由で意図せぬ売買契約を締結してしまった買主にとってデメリットが大きいため、民法では、買主が万が一誤注文をしてしまった際に保護するため、錯誤という制度を設けています。
錯誤については、2020年4月1日から、新しい条文が施行されました。
(改正民法第95条) 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 |
1項1号の、意思表示に対応する意思を欠く錯誤というのは、いわゆる表示の錯誤のことであり、例えばある商品の赤を注文しようと思っていたのに、誤って青を下さいと注文してしまったような場合をいいます。
1項2号の、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤というのは、いわゆる動機の錯誤のことであり、例えば政府からの旅行の補助金の計画があると思いこんでスーツケースを注文したが、実際には補助金の計画はなかったような場合をいいます。
このような勘違いによる誤注文があった場合には、購入者は民法に基づいて売買契約を取り消すことができます。
未成年者や成年被後見人が注文した場合について
未成年者や成年被後見人は、原則として一人では有効に契約を締結することができないとされています。これらの人は、内容を正確に理解してから契約を締結することが難しい場合があることが理由です。音声ショッピングにおいては、スマートスピーカーにアクセスをすることさえできれば、これらの人も注文することはできてしまいますので、注意が必要です。
ただし、未成年者については、親などの法定代理人が目的を定めて処分を許した範囲などでは自由に契約ができます。また、成年被後見人は、日用品の購入など、日常生活に関する契約は自由にできます。そのため、これらの範囲においては、未成年者や成年被後見人であったとしても、売買契約は有効に締結可能です。
EC・通販サイトが注意すべきこと
このように、消費者としては、誤注文をしてもある程度の範囲で、契約の取り消しをすることができますので、EC・通販サイト側としては、誤注文が多発すると大きな被害を被ってしまうことになりかねません。そのため、EC・通販サイトとしては、誤注文を防ぐ仕組みづくりが重要です。
誤注文を防ぐ仕組み作りとしては、音声で発注の後、注文確定手続きを別途必要にする、音声注文過程で、内容確認を複数回行う、リピート注文以外の新規注文は、商品ページの確認を必須にするなどの手続的な防止策が、まず有効です。ただし、やりすぎてしまうと音声ショッピングの便利さを損なうことになってしまいます。
そこで、法的な面からも、音声ショッピングのトラブルを防ぐ仕組みを整えることが有効です。具体的には、音声のやりとりにおいても、前述のような法律上の取消の理由(未成年者ではないか、数量の勘違いをしていないかなど)がないか、確認するステップを取り入れることをお勧めします。
まとめ
音声ショッピングは、消費者にとって便利な反面、注文画面が見えないことで起こる誤注文を始めとしたトラブルも発生しています。音声ショッピングを取り入れる予定のあるEC・通販サイトを運営する企業の皆様には、民法改正を含めた法律的なこと、そして今後音声ショッピングの普及に伴って発表される省庁から発表されるさまざまなガイドラインなども参照し、誤注文などをできるだけ防止できるような仕組みを整えていくことをお勧めします。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、EC・通販サイトにおけるトラブル防止について、弁護士による相談を受け付けています。ビジネスと法律の両面からアドバイスさせて頂きますので、いつでもご連絡ください。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。