住宅宿泊仲介業者の守るべき義務とは?
目次
「民泊新法」とも呼ばれる「住宅宿泊事業法」では、安心・安全な宿泊環境の確保を目指し、民泊(民間の宿泊施設の提供)に関する規制や義務が定められています。その中で、「住宅宿泊仲介業者」の役割については、住宅宿泊事業法2条8項で次のように定義がなされています。 一つは民泊に宿泊したいユーザーが、民泊物件に泊まれるように代理契約の締結、仲介をすること。 二つ目は民泊事業者のために、宿泊者に対するサービスの提供について、代理契約の締結と仲介をすること。つまり、民泊に泊まりたい人と民泊事業者をマッチングさせる役割を持つ業者のことを「住宅宿泊仲介業者」と呼び、民泊のプラットフォーマーについても住宅宿泊仲介業者に分類されます。今回は、この住宅宿泊仲介業者にフォーカスし、住宅宿泊仲介業者の守るべき義務について解説します。
住宅宿泊仲介業者とは何か?
前述したように、民泊の予約等の仲介を行う業者のことを「住宅宿泊仲介業者」といいます。民泊の需要は増加傾向ですが、民泊事業者が単独で集客を行うのは難しいことから、仲介業者の存在が必要とされています。住宅宿泊仲介業者とは、具体的には、宿泊施設の予約受付や料金の決済、宿泊者との契約の締結などを専門に行う業者を指します。民泊新法(住宅宿泊事業法)の制定により、住宅宿泊仲介業者には、特定の義務と責任が課されました。住宅宿泊仲介業者には、違法民泊をさせないための監視の目としての役割もあるため、一般の宿泊施設や旅行代理店とは異なる業務内容が求められます。
住宅宿泊仲介業者として登録するには?
観光庁への登録
住宅宿泊仲介業を開業する場合は、観光庁長官の登録を受ける必要があります。「住宅宿泊仲介業者」と「旅行業者」との大きな違いは、住宅宿泊仲介業者は、住宅宿泊事業法に基づく届出住宅しか扱うことができないという点です。旅館・ホテル等届出住宅以外の物件の仲介を行うためには、旅行業法に基づく旅行業者として登録する必要があります。
登録手続
住宅宿泊仲介業者の登録の申請は、「民泊制度運営システム」を利用して行うのが原則です。
登録免許税は、新規の登録申請1件につき9万円で、5年ごとの更新が必要となります。
必要書類は、国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則27,28条に基づき、住宅宿泊仲介業者登録申請書、定款、登記事項証明書、貸借対照表および損益計算書、住宅宿泊仲介業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類、欠格事由に該当しないことを誓約する書面などになります。詳しくは、「民泊制度ポータルサイト」の登録に関する情報をご参照ください。
【民泊制度ポータルサイト:住宅宿泊仲介業者として登録するには?】
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/mediation/registration.html
登録要件
住宅宿泊仲介業者は、誰でも簡単に登録できるものではなく、登録の拒否事項というものが定められています。これらの事由に該当する場合には、登録を受けることはできません。その中でも気を付けておきたいのは、住宅宿泊事業法49条1項10号の仲介業務を行うために必要とされる財産的基礎を有していない場合や、49条1項11号の仲介業務を的確に行うための業務体制が整備されていない場合です。経営破綻のリスクがあるものや、そもそもの業務運営ができない状態のものには許可は出しませんよということです。新規で参入する場合には、このあたりの登録要件をクリアできるかどうかも、十分検討する必要があります。
住宅宿泊仲介業者の守るべき義務とは?
住宅宿泊仲介業者には、以下のとおり、様々な義務が課されています。
住宅宿泊仲介業約款について
住宅宿泊仲介業約款を定め、その実施前に観光庁長官へ届け出る必要があります。また、営業所又は事務所において、掲示かインターネットによる公開のいずれかの方法で、住宅宿泊仲介業約款を公示することも求められます。
住宅宿泊仲介業務に関する料金の公示等について
住宅宿泊仲介業者は、業務の開始前に、国土交通省令で定める基準に従って、宿泊者および住宅宿泊仲介業務に関する料金を定め、営業所又は事務所における掲示かインターネットによる公開のいずれかの方法で、その料金を公示しなければなりません。
不当な勧誘等の禁止について
住宅宿泊仲介業者は誤認を招く広告や表示などの不当な勧誘行為が禁止されています。
違法行為のあっせん等禁止について
住宅宿泊仲介業者は、違法なサービスのあっせんや広告を行うことが禁止されています。例えば、住宅宿泊事業法等で規定されている義務や、年間提供日数の180日の上限規制を守っていない民泊物件については、仲介やウェブサイト上で広告等をすることはできません。違法な物件が民泊仲介サイトに掲載されていた場合、観光庁から指摘を受け、削除等の対応を求められることになります。
住宅宿泊仲介契約の締結前の書面の交付について
住宅宿泊仲介業者は、宿泊者との締結前の契約内容や履行に関する事項を書面にて説明、交付する義務があります。ウェブサイトでの仲介を行っている事業者も多いため、住宅宿泊事業法33条2項、59条2項により電子交付により行うことも可能となりました。
標識の掲示について
住宅宿泊仲介業者が、登録年月日、登録番号等を電磁的方法により公示する場合は、標識の提示義務は適用外ですが、原則として、国土交通省令で定める様式の標識を営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に掲示する必要があります。
義務に違反した場合は?
住宅宿泊仲介業者が前述の義務に違反した場合には、業務改善命令、業務停止命令、登録取消処分、処分の公表、立入検査、罰金や懲役等の罰則等の対象となります。法令違反により、行政処分や罰則等の対象となることはもちろんですが、問題が発生することにより、中長期的かつ安定的に住宅宿泊仲介業を運営することが出来なくなるため、くれぐれも違法とならないように注意しましょう。
まとめ
このように、住宅宿泊仲介業者には、住宅宿泊事業者や宿泊者、その他の関係者などへの義務が課されており、適正な業務を行い、宿泊者の満足度を高めるために、これらの責任を果たすことが求められています。このように住宅宿泊仲介業者の業務の公平性や適法性が国によって厳しく管理されていることにより、仲介業者や民泊が宿泊者等の信頼を獲得でき、ひいては民泊業界の健全な発展を促すことができるのです。
民泊新法の制度や住宅宿泊仲介業者の責任範囲について十分理解し、安全かつ適正に事業を運営するためにも「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2023年12月現在の法令・情報等に基づいています。
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