EC・通販サイトを開設するなら、商標登録を検討しよう!
目次
商標登録というと新商品やブランドにつけるものというイメージがありますが、EC・通販サイトを開設する際にも大きくかかわってきます。EC・通販サイトを始めるのであれば、サイトの名称や取扱商品について商標登録をすることが望ましいです。その理由を詳しく解説します。
商標権とは
商標権とは、商品やサービスについた目印である商標を保護することを目的とする権利です。以下、具体的に解説します。
商標権の基本
商標権とは、ネーミングやロゴを作成したら自動的に発生するものではありません。自ら特許庁に商標登録出願をし、審査に通過した後、登録料を納付し商標登録原簿に登録されることで商標権が発生します。
商標法第25条により、商標権を持つことで、登録商標を使用する権利を専有します。さらに、商標法第37条では、他人によるその類似範囲の使用を排除することができることが定められています。
ただし、商標権の効力は日本国内に限定されます。海外でも商標登録をしたい場合には、それぞれの国の制度に基づき申請する必要があります。
EC・通販サイトに商標権が関係する理由
以前の商標法では、一度に多数の商品を扱う小売サービスを指定役務としての商標登録はできませんでした。その後、平成17年4月の商標法改正で小売等役務商標制度が新設され、小売サービスを指定役務としての商標登録が可能になりました。
EC・通販サイトで登録すべき商標権は、サイト名・ロゴ、場合によっては取扱商品です。そしてサイト名・ロゴの商標登録はお店が有名になってからではなく、EC・通販サイト設立当初にすることが望ましいのです。
なぜなら、EC・通販サイトは、実店舗に比べて情報が広く早く広まります。そのため、商標登録をしていないことで、ショップ名や商品名を悪意のある他者に登録されてしまうなど、商標に関するトラブルに巻き込まれる可能性が高いのです。
他にも、EC・通販サイトには多くの店舗が存在し、似たようなネーミングのものも多いというのも理由の一つです。偶然に同一のネーミングを使用してしまった場合、商標権には先願主義という特徴があるため、商標を登録していない側が大きく不利になってしますのです。
商標登録の効果
商標登録をすることで、類似商品を販売、または自社のロゴやネーミングを使用している他者に対して、差止請求や損害賠償請求をすることができます。つまり、商標権があることで、自社のEC・通販サイトのブランドイメージ・取扱商品の競争力などを守ることができるのです。
商標登録により得られる効果のことを、法律用語では以下のようにいいます。
・出所表示機能(製品・サービスの製造者あるいは提供者を明示する機能)
・自他識別機能(需要者が誰の商品かを認識できる機能)
・品質保証機能(満たすべき水準の品質を保証する機能)
・広告宣伝機能(ブランドの情報伝達機能)
商標登録をしなければどうなるのか
商標登録は、義務ではなく任意です。しかし、商標登録しないと多くのリスクやデメリットがあることを知っておく必要があります。
他者に商標権をとられる
商標登録をしないことで、他者に商標権をとられるリスクがあります。他者に商標権をとられてしまうと、それまで使ってきた自社のEC・通販サイトのネーミング・ロゴなどが使えなくなってしまいます。さらには、商標権の侵害で訴えられてしまう可能性まであるのです。
悪意のあるケース
他社に商標権をとられるケースには、悪意のあるケースがあります。
例えば、あなたのEC・通販サイトや販売商品に魅力を感じた競合他社が、類似するEC・通販サイトを作成して商品を販売したとします。そうなると、購入者はあなたのEC・通販サイトから競合他社のサイトに流れてしまう可能性があります。
さらには、競合他社が類似するEC・通販サイトのネーミングやロゴなどを先に商標登録してしまった際には、たとえ自社が先にEC・通販サイトを作成しており、ネーミングやロゴを考えたのが自社であったとしても、商標権の侵害で訴えられてしまう可能性まであるのです。そうなると、当然そのEC・通販サイトを運営し続けることは困難になってしまいます。
このように、人気のある、もしくはこれから人気が出そうなネーミングやロゴ、商品を持ち主よりも先に商標登録して、お金を儲けようとする悪意のある商標トロールというビジネスまで存在するので、注意が必要です。
特にEC・通販サイトは短期間で広く知れ渡るという特徴から、そのような悪意のある他者の目にも止まりやすいのです。
悪意のないケース
商標登録をしていないことにより発生するデメリットは、悪意のあるケースばかりではありません。偶然、似ているネーミングやロゴを使用していたというケースもあります。その際も、自社が商標登録をしていなければ相手に自社の権利を主張することもできません。
商標登録をしないことで、全く悪意がない、もしくは身に覚えがないにもかかわらず、逆に自分が商標権侵害で訴えられてしまうというケースもあります。
商標登録をしていないということは、つまり誰かがすでにそのネーミングやロゴを使っている可能性を確認できていないということであり、すでに存在している他者の商標権と類似したものを知らないうちに使用してしまっている可能性があるということなのです。
商標登録を申請し審査に通過するということは、他者の商標権を侵害していないという事実確認ができるという効果もあります。商標法には、過失の推定規定があるため、知らなかったという言い訳は通用しないため注意が必要です。
商標登録の方法
では、商標権はどのように獲得すればいいのでしょうか。商標登録の方法を紹介します。
商標登録はどこに提出するのか
商標登録をしたい場合は、特許庁に出願します。特許庁の出願受付窓口へ提出、もしくは郵送でも提出することができます。
商標登録の手続き方法
商標登録をするためには、出願をする前に類似の商標が登録されていないかを事前調査します。事前調査を怠ると、せっかく申請をしても審査で落ちる可能性が高くなってしまいます。
商標登録手続きの方法は、以下の流れが最もスムーズです。
・出願(特許庁に提出)
・審査
・手数料の納付
・登録
しかし、審査の段階で拒否されることもあります。
審査に何らかの問題があった場合は、拒絶理由の通知があります。これに対応しないと、そのまま拒絶査定が確定してしまいます。審査拒絶理由通知が届き、それでも自社の商標登録が有効だと考えるのであれば、意見書・補正書を提出します。それが認められれば、登録査定が確定することになります。
その後、商標登録料を支払うことで商標登録が完了します。商標登録にかかる料金は以下の通りです。
・出願料: 3,400円+(8,600円×区分数)
・登録料: 32,900円×区分数
※書面で提出した場合の電子化手数料:2,400円+(800円×書面のページ数)
商標登録にかかる時間
商標登録までの平均時間は、一般的に11~13カ月といわれています。拒絶理由通知があった場合などは、さらに時間がかかります。逆に早期審査制度を活用すれば短縮することもできます。
商標登録にここまで時間がかかる理由は、近年商標出願数が増えているためです。今後もさらに出願数が増えることが予想されるため、審査待ちの期間がさらに伸びる可能性もあります。
特許庁の注意喚起
近年、悪意のあるものを含め、商標の大量出願が増えていることを受けて、特許庁は以下のように注意喚起をしています。
自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意) 平成28年5月17日 特許庁最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています。特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の却下処分を行っています。 また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合(商標法第3条第1項柱書)や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法第4条第1項各号)には、商標登録されることはありません。 したがいまして、仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。 なお、これらの出願についても、出願公開公報やJ-PlatPatにて公表されますが、当該情報はあくまでも商標登録出願がなされたという情報の提供であり、これらの出願に係る商標が商標登録されたことを示すものではありません。 商標制度の利用者の皆さまにおかれましては、上記に関連してご不明な点や気掛かりな点などございましたら、下記の問合せ先までご連絡ください。 https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/tanin_shutsugan.html |
他者に商標権を侵害されてしまったらどうすればいいのか
商標権の侵害とは、正当な権限なく第三者が既に登録された商標、もしくは類似している商標を使用していることをいいます。
商標権を侵害されるのはどんなケースか
同じ・もしくは類似の商標を使用しても、商標権の侵害になるケースとならないケースがあります。
具体的には、特定の商標を、その商標が登録されている指定商品・指定役務と一致するものに対して使用することで、商標権の侵害となります。
商標権の侵害に気付いたらどうすればいいのか
商標権が侵害されていることに気付いたら、使用の差し止めを求めることができます。使用者に直接通知をすることで使用をやめてもらえる場合もありますが、それが難しい場合は訴訟に発展します。
民事的な措置としては、差止請求を裁判所に対して行うことができます。裁判所で差止請求が認められると、状況に応じて、商標の使用停止や商品の販売停止、商品の廃棄などが認められます。また損害賠償請求を行うことも可能です。
他にも商標権者が得るはずであった利益を返還請求することができるという、不当利得返還請求を利用することもできます。また、謝罪広告の掲載など、信頼回復措置請求の権利もあります。
また、自社が使用しているネーミングやロゴを、悪意のある第三者が勝手に出願しているということが判明した場合には、以下のような制度などを利用して対応をすることになります。
- 情報提供制度
- 商標登録異議申立制度
- 不使用取消審判
- 無効審判
どのケースでも、商標侵害を訴えるには専門的な知識が必要になります。もし商標権の侵害に気付いたら、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
近年、商標権の重要性は高まってきています。ここまで見てきたように、EC・通販サイトを開設・運営する際にも商標登録は必要です。自社の商標を他者に使用されないように守るだけではなく、他者の商標権を侵害しないように注意することも大切なのです。EC・通販サイトを運営・開設する際には、商標権について必ず留意しましょう。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2023年11月現在の法令・情報等に基づいています。