アメリカでECビジネスを展開する際に知っておくべき法律とは
目次
はじめに
ECビジネスが一般的となった現在、国内だけにとどまらず国境を超えて行われるEC・通販取引(越境EC)がよく見られるようになってきました。日本企業の海外進出・海外展開を考えた際に、越境ECの利用は一つの手段といえます。海外から見た日本製の商品は、機能性や安全性の面で品質が高いと評価を受けており、また海外では簡単に手に入れられないものもあるため、越境ECを利用した日本製品の購入は人気となっています。
一方で、越境ECが世界中で普及するにつれ、越境ECに絡んだ様々な法的問題が増加しています。これは主として、日本国内の法律と海外の進出先の国の法律とでECビジネスに関する規制内容が異なることに起因しています。つまり、自国の法律しか考慮せずに越境ECを行った結果、相手国の法律に違反してしまい、ペナルティを課されることが起きているのです。
例えば、アメリカでは連邦法および州ごとの法律(州法)が定められており、日本からアメリカへ事業を展開する際、これら現地の法律を遵守する必要があります。本稿では、アメリカへの越境ECを行う上での基本ルールや、留意すべき点について説明していきます。
アメリカにおけるECビジネスのルール
日本から海外進出をし、アメリカでECビジネスを行う際には、アメリカの連邦法、州法、輸出および再輸出の管理に関する規制、適切な契約締結のルールを遵守する必要があります。また、一部の商品およびサービスの販売には別途、連邦政府の機関によるライセンスが必要となります。
アメリカのECビジネスを統括しているのは、連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下「FTC」といいます。)と呼ばれる連邦政府の機関です。FTCは消費者保護を目的として、企業の不公正なビジネス行為を取り締まっています。
FTC では、ECビジネスの取締りに関して、経済協力開発機構(The Organisation for Economic Co-operation and Development 、以下「OECD」といいます。)のガイドラインを公式に採用しているため、日本からアメリカに進出して、ECビジネスを展開する場合には、2016年制定の「電子商取引における消費者保護(OECD勧告)」(Consumer Protection in E-commerce, http://www.oecd.org/sti/consumer/ECommerce-Recommendation-2016.pdf)を遵守する必要があります。
電子商取引における消費者保護(OECD勧告)
OECD勧告では8つの基本項目を掲げています。
A.透明かつ効果的な消費者保護
EC取引においては、他の形態の商取引で提供される保護のレベルと同等か、それ以上の透明かつ効果的な消費者保護を提供しなければなりません。未成年者をはじめとした、立場の弱い消費者に対しては十分な保護がなされるよう政府が適切な規制を設けることが必要とされています。
B.公正なビジネス、広告及びマーケティング慣行
企業は、虚偽的、詐欺的、誤解を招きまたは不公正となる行為を行ってはなりません。このような行為の例としては、商品、サービスの名前、画像、音声、映像などを通じて伝えられる消費者の一般的な印象が不正確または理解しづらいものであることや、免責事項を表示していないことが挙げられます。
C.オンライン上の情報開示
オンライン上の情報開示は、消費者が取引に関して意思決定を行う上で、十分な情報を入手できるよう、情報は明確、正確、容易にアクセス可能であり、そして目立つように表示しなければなりません。
D.取引の確認プロセス
企業は、消費者に取引の確認を要求する前に、商品またはサービスの購入内容と価格、配達価格をレビューする機会を消費者に提供する必要があります。 また、レビューの段階で、消費者が間違いを修正したり、取引を変更または停止したりできるようにする必要があります。サブスクリプション型のような新しい支払いメカニズムの場合は特に、企業は消費者に対して、支払い期限や契約内容について明確に示し、消費者が確認できるようにする必要があります。
E.支払メカニズム
企業は、利用が容易な支払システムを消費者に提供し、個人データに対する不正アクセスや不正使用、個人情報の盗難などによる支払関連のリスクに対して適切なセキュリティ対策を実装する必要があります。
F.紛争解決と救済
消費者がEC取引の紛争を適時に解決し、必要に応じて救済を受けられるよう、また、不必要な費用や負担をかけることなく、公正で使いやすい、透明で効果的な制度にアクセスできるよう、適切な紛争処理の仕組みを整備する必要があります。なお、紛争処理の仕組みには企業自身による苦情処理システムや裁判外紛争解決手続など、裁判以外の紛争解決手段を取り入れることが求められています。また、これらの紛争解決手段の使用が、他の紛争解決および救済を行う妨げになってはなりません。
G.プライバシーとセキュリティ
企業は、消費者データの収集と使用に関連した行為を合法、透明、公正に行い、データ収集について消費者の参加及び選択を可能とし、合理的なセキュリティ保護策を実施することによって、消費者のプライバシーを保護する必要があります。
H.教育、啓発、デジタル能力
情報に基づいて消費者が適切に意思決定する能力と、企業のEC活動の質を促進するために、政府と企業が協力し消費者や企業自身の意識向上に努める必要があります。
アメリカでEC展開する際に守るべきマーケティング規制
FTCではインターネット上の広告に関しても規制を行っています。特に虚偽広告に対しては、近年取り締まりを強化しており、企業は自社の広告内容が適切かどうか十分に精査する必要があります。
FTCの広告規定に違反した場合、広告内容の修正を求められるだけではなく、消費者から損害賠償を求められたり、民事制裁金と呼ばれる罰金を課せられたりすることもあります。日本企業がアメリカの顧客向けに広告を展開する場合には十分注意する必要があるでしょう。
以下では、広告に関する規制について、FTCが特に注意を促しているカテゴリについて紹介します。
①子どもを対象とする広告
子どもに向けて直接宣伝したり、子ども向けの商品を親に売り込んだりする場合は、広告によって不正確な、あるいは誤解を生じさせる情報を伝達しないように注意する必要があります。また、子ども向け商品の食品表示に関しては別途ガイドライン(https://www.ftc.gov/food-marketing-to-children-and-adolescents)が設けられています。
②インフルエンサーマーケティング
広告主とインフルエンサー、クチコミ・レビュー投稿者との間に「重大な関係」(例えば、商品の無料提供などの見返りを伴った広告商品の宣伝・レビューを依頼する等)がある場合は、その関係を明白に開示しなければなりません。FTCではインフルエンサーマーケティングに関するガイドラインを公開しています。
(http://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=701066299822530421fece37367c91d3&mc=true&node=pt16.1.255&rgn=div5)
③環境マーケティング
近年「環境への配慮」を打ち出した広告が増えてきています。しかし、このような広告には信頼できる科学的証拠が必要とされます。詳細については、FTCはグリーンガイド(https://www.ftc.gov/policy/federal-register-notices/guides-use-environmental-marketing-claims-green-guides)を公開しているので、参考にしてください。
④健康に関する表示がある広告
企業は、確かな証拠をもって広告宣伝を行う必要があります。特に、食品、市販薬、栄養補助食品、コンタクトレンズ、その他の健康関連製品を販売する企業は注意が必要です。
その他注意すべきポイント
①法律のアップデート
ECビジネスを取り巻く環境は、年々変化しており、それに対応するべく法律も変化しています。そのため、法律の改正や、新しい法律の成立に対して、常に最新情報をフォローアップする必要があります。
②国内法人と海外法人間の違い
国内法人に適用するルールと海外法人に適用するルールが異なる国も多く存在しています。海外進出を本格的に行う場合には、現地法人を設立し、相手国の国内法人としてビジネスを行ったほうが有利となる場合があります。
③販売の法的制限
販売が可能な商品や購入者については、国ごとに独自の規制があります。例えば、ほとんどの国では、未成年者が締結した取引の法的強制力が否定されていますが、法律上の成人年齢は国によって異なります。同様に、食品、アルコール、武器、骨董品など、いくつかの製品カテゴリには、その販売に特別な制限が設けられている場合があります。ECビジネスであっても、これらの要件を満たさない場合は法律に抵触し、法的責任を負う場合があります。
ECビジネスを成功させるためのポイント
①支払方法
ECビジネスでは、消費者の購買意欲を損なうことがないよう安全で簡単な決済システムの導入がビジネス成功の鍵となってきます。アメリカの場合、オンライン決済で主流なのはクレジットカードですが、最近はPayPal、ApplePay、Google Payなどの第三者支払サービスも増えてきています。どれも電子決済に特化しておりセキュリティ面に強い特長があることが共通します。一方、日本では一般的な着払いや銀行振込はあまり利用されていません。越境ECでは、相手国の決済システムをリサーチし、それに合わせた支払方法を提供できると良いでしょう。
②配送システム
デジタルダウンロードのみを販売する場合を除き、信頼できる配送システムを確立する必要があります。配送トラブルで商品が届かなかった場合、企業に対する顧客からの信頼は失われます。一方で、追跡サービスなど顧客が安心できる配送システムを提供できればビジネスにとってプラスになることでしょう。
海外進出・海外展開への影響
本稿では、日本企業が海外進出、海外展開し、アメリカへの越境ECを行う上で把握しておくべき基本的な法律やガイドラインについて紹介しました。越境ECでは、ビジネスの拠点を日本に残したまま、海外の顧客に商品を販売することが多いと思いますが、取引相手先の国の法律に無知であることはトラブルのもとになります。
実際、アメリカにおけるECビジネス関連の法律は、企業から消費者を守ることを目的としているものが主流です。そのため、アメリカに現地法人を持たない場合であっても、取引相手国の法律を遵守するよう注意する必要があります。特に、越境ECでは取引の場がウェブサイト上ですので、サイト規約や商品の表示、広告などが相手国のルールに沿っているか確認することが重要です。
越境ECは、日本企業が海外進出・海外展開する際の足がかりとして非常に有効です。今後も世界的に成長が見込まれる分野ですので、安全に事業を発展させるためにも、相手国のルールを把握し、トラブルに巻き込まれないように準備しながら進めることが重要です。弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では越境ECのご相談をお受けしていますので、いつでもご連絡ください。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2020年5月現在の法令・情報等に基づいています。