EC・通販サイトには特定商取引法に基づく表示が必要!規制範囲は電子メールにも及ぶ
EC・通販サイトを運営するためには、サイト上で特定商取引法(以下、「特商法」といいます。)に基づく表記について記載する義務が生じる場合があります。また、特商法の対象は電子メールにも及びます。特商法に基づく表記とは具体的にはどのようなものなのか、EC・通販サイト運営に関係する特商法について解説します。
特定商取引法(特商法)とは何か
特商法の基本情報
特商法とは、正式名称を特定商取引に関する法律といい、取引の公正性と消費者被害の防止を図るための法律です。商品の売買において弱い立場に立つ消費者を守り、また販売者を明示することで商品の流通や提供を明確化していくためのものです。
日本の高度経済成長期に、訪問販売やマルチ商法など販売業者と消費者とのトラブルが増加し始めました。特商法は、それらのトラブルを改善し消費者を守るために昭和51年に施行された法律です。具体的には、事業者が厳守すべきルールやクーリング・オフ等の消費者を保護するルールについて定めています。
特商法の対象となる取引の種類は、以下の7つです。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 特定継続的役務提供
- 業務提供誘引販売取引
- 訪問購入
EC・通販サイトは上記類型の中の通信販売に該当します。そのためECサイト運営者は、特商法が定めるルールのうち、通信販売に関するものを厳守する必要があります。
特商法に基づく表記が必要な理由
特商法に基づく表記があることで、消費者は安心して買い物をすることができます。消費者の立場からすると、何の情報もない事業者から商品を購入するのは不安です。その不安を払しょくするための情報として、特商法に基づく表記が必要なのです。表記は法律上義務付けられるものですが、消費者心理としても情報を開示してくれているサイトの方がより信頼できると考えられます。
特商法に基づく表記では、「特定商取引法に基づく表記」というページを設け、以下の内容を記載する必要があります。
- 事業者名
- 所在地
- 連絡先
- 商品等の販売価格
- 送料などの商品代金以外の付帯費用
- 代金の支払時期
- 代金の支払方法
- 商品等の引き渡し時期
- 返品の可否と条件
それぞれの項目の具体的な表記内容について、次項で詳しく解説します。
特商法の表記方法
特商法では、EC・通販サイトの取引類型は通信販売に該当します。特商法では通信販売に関して、以下のように定められています。
「(通信販売についての広告)
第11条 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは指定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。ただし、当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には、販売業者又は役務提供事業者は、主務省令で定めるところにより、これらの事項の一部を表示しないことができる。
一 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)
二 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
三 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
四 商品若しくは指定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(第十五条の二第一項ただし書に規定する特約がある場合には、その内容を含む。)
五 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項」
具体的にはどのような表記が必要なのか、以下にご説明します。
事業者名
事業者の名称を記載します。この場合の名称とは、登記簿上に記載されている正式な名称であることが必要です。さらに、代表者もしくはEC・通販サイトの責任者の氏名を記載する必要があります。
所在地
事業者が現在使用している住所を記載します。また住所を記載する際は、省略せず正式な住所を記載する必要があります。
連絡先
消費者からの問い合わせに対応するための連絡先を記載します。具体的な指定はありませんが、電話番号に合わせてメールアドレスも記載するケースが多いです。また問い合わせに対応できる曜日や時間帯を記載すると親切です。
商品等の販売価格
販売する商品の販売価格を記載します。扱う商品が多い場合は「商品紹介ページをご参照ください」と記入し、そちらに記載しても問題ありません。ただし、定価や希望小売価格等だけではなく、実際の販売価格を記載することが義務付けられています。
送料などの商品代金以外の付帯費用
消費者が負担しなければならない費用について、具体的な金額を記載します。この場合の費用には、送料や振込手数料、代金引換手数料などが該当します。表示した販売価格に対して、消費税が別途必要な場合もここに記載する必要があります。
代金の支払時期
消費者が商品を購入する際に、代金を支払う時期(タイミング)を記載します。大きく分けて、前払い、後払い、同時払い(代引き)があります。具体的には、以下のように記載します。
- 前払いの場合:代金入金確認後、即時(または○日以内)に商品を発送致します。
- 後払いの場合:商品到着後、同封の振込用紙にて〇日以内にお振込みください。
- 代金引換の場合:商品到着時に、運動会社に代金をお支払いください。
代金の支払方法
対応している支払い方法について記載します。支払方法には以下のようなものがあります。
- クレジットカード決済
- 銀行振込み
- 代金引換
- コンビニオンライン
- コード決済(Apple Pay/LINE Payなど)
- 電子マネー(Suicaなど) など
商品等の引き渡し時期
商品を注文してから、商品が届くまでにかかる時期を記入します。ただし、消費者の手元に商品が届くまでにかかる時間は運送状況にも影響されるため、基本的には「入金確認後○日以内で発送致します」という表記の仕方が考えられます。
返品の可否と条件
注文商品の返品の受付可否や、返品に関する特約など記載します。ここに記載するのは、商品に欠陥があった場合等ではなく、商品に問題はないが消費者の都合で返品したいという場合のルールです。
特商法(15条の2第1項)によると、通信販売ではクーリング・オフ制度とは別に、商品を受け取って8日間までは返品できるという規定が存在します。ただし、返品の可否と条件を表示していればそちらが優先されるため、このルールは適用されません。
特商法の規制となるメールはどのようなものか
EC・通販サイトにおいて、広告・宣伝メールの送信を行う際には、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(以下、「特定電子メール法」といいます。)と特商法の2つの法律が関係します。この2つの法律に基づいたメールでの広告・宣伝の注意点をご説明します。
広告メール送信時に知っておくべき特商法と特定電子メール法
特商法については上記で解説しましたので、ここではまず特定電子メール法についてご説明します。
特定電子メール法は、営利目的で不特定多数宛てに配信される迷惑メールを防止するための法律です。この特定電子メール法が適用される電子メールを、特定電子メールといい、広告宣伝のために送信するメールがこれに該当します。また、SMSを利用して送信されるものも特定電子メールにあたります。
メールにて広告を行う際には、この2つの法律による規定を守る必要があります。
特商法と特定電子メール法で定められる内容
まず特商法では、以下のルールを守る必要があります。
- 事前にメールを送信する相手の同意を得る(オプトイン方式)
- 同意を得られた場合は、同意を得た証を記録
- 承諾(同意)があったことを示す書面または電子データを保管
- データの保管期間は、対象の電子メール広告を最後に送信してから3年間
- 送信メール内に、配信を拒否するための方法をわかりやすく記載
次に、特定電子メール法のルールを紹介します。
- 事前にメールを送信する相手の同意を得る(オプトイン方式)
- 同意を得られた場合は、同意を得た証を記録
- 同意を得た証の記録期間は、対象のメールを最後に送信してから1か月以上
- 送信メール内に、定められた情報(送信者情報など)の記載を行う
2つの法律のルールはよく似ていますが、ポイントは以下のとおりです。
- 共に、事前にメールを送信する相手の同意を得る(オプトイン方式)
- 記録・保管義務の対象は、特定電子メール法では同意を得た証なのに対し、特商取法では加えて承諾があったことを示す証拠のデータが必要
- 保管期間は、特定電子メール法では1か月以上なのに対し、特商法では3年
- 送信メール内に記載すべき内容は、特定電子メール法では定められた情報なのに対し、特商法では配信を拒否するための方法
広告メールを送信する際には、2つの法律両方のルールを守ることができるよう、各項目について厳しい方の条件に合わせて行う必要があります。
メール送信には事前同意が必要
前項でも紹介したように、広告メールを送る際は、原則として事前に受信者の同意をとる必要があります。
以下では、同意を取得する方法や同意の範囲について解説します。
事前同意の取得方法
広告メールを送信することに対する同意を得るためには、受信者に広告・宣伝メールの送信が認識されるように説明し、受信者が承諾の意思を表示する必要があります。
具体的な方法としては、商品の購入ページや会員登録ページの申込みボタン付近に、広告メールの受信の希望に関するチェックボックスを設けるとスムーズです。利用者にチェックを入れてもらう方法であれば、広告メールを送信する承諾を得たといえます。
事前に同意を取得しておかなければならない範囲は、広告メールを送信することであるため、メールの種類や内容までは指定する必要はありません。ただし注意点として、メールの送信者が誰かを認識してもらった上でないと同意を取得したことになりません。そのため、送信者の名称等をわかりやすく記載し認識できるような状態で同意を得る必要があります。
メール送信時のポイント
広告メール送信時には、特定電子メール法では定められた情報、特商法では配信を拒否するための方法を記載する義務があります。
特定電子メール法では、定められた情報として受信者が事前の同意を通知しているメールであることが容易に判断できるように、下記の項目を表示する必要があります。
- 送信者の氏名または名称
- 受信拒否ができる旨の通知
- 送信者の住所
- 苦情や問い合わせの受付先
同時に、特商法で定められている配信を拒否するための方法(配信停止の手続き方法)についても忘れず記載しましょう。
まとめ
ECサイトを運営するためには、特商法に基づく表記についてしっかりと理解し、全ての項目について表記する必要があります。さらにその規制の範囲が広告メールまで及んでいること、広告メールに関しては同時に特定電子メール法も関係することを知っておきましょう。これらは基本さえ押さえておけば難しいことではありません。わかりやすく親切に情報を提供することは、購入者からの信頼獲得にもつながります。法律を守ると同時に、消費者に優しいサイト運営を心がけましょう。
弊所では、特商法や特定電子メール法に関するご相談を受け付けていますので、いつでもご相談ください。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本記事の記載内容は、2020年5月現在の法令・情報等に基づいています。