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「グレーゾーン解消制度」とはなにか?弁護士が解説

通信テクノロジーの発展によって、世界的な市場の距離が縮まっていることもあり、これまでにはない、新しい事業が多く生まれている中で、自社の新事業が法的な規制に対して白黒つけられない状況であったり、規制が気がかりで新事業に踏み出せなかったりといった場合に、「グレーゾーン解消制度」を利用することによって、事業者の方々の不安や懸念を解消することができます。
この記事では、「グレーゾーン解消制度」という、事業者が新規の事業活動に安心して取り組めるよう設けられた制度の概要について解説します。

グレーゾーン解消制度の概要と活用事例

「グレーゾーン解消制度」とは、そもそもどのような制度であるのか、そして、どのような目的を持ち、どのような政策や課題を背景に制度化されたのかについて見ていきましょう。また、グレーゾーン解消制度の活用事例も紹介します。

グレーゾーン解消制度の概要、制度化された背景

グレーゾーン解消制度は、産業競争力強化法に基づき、企業や個人がグレーゾーン(灰色地帯)とされる規制に違反せずに事業を展開するための制度です。その目的は、法的な曖昧さや不確定性を解消することにあります。具体的には、法的な解釈の相違や規則の適用範囲の理解の欠如によって生じる、いわゆる「グレーゾーン」に対して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できるようにすることで、企業や個人の合法的で法に即した活動を保証することです。この制度によって、企業や個人は法的なリスクを最小限に抑えながら事業を展開することができます。
類似した制度に、2001年に導入された「法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)」がありますが、同制度は各規制所管省庁が照会先であり、対象法令範囲が限定されていることや、規制の緩和につなげるサポートを行う制度ではありませんでした。これらの課題を踏まえ、対象法令を限定せず新事業を推進する目的で、2014年に新たに「グレーゾーン解消制度」及び後述する「新事業特例制度」が導入されました。

グレーゾーン解消制度の活用事例~経済産業省照会書の公表事例より~

グレーゾーン解消制度の活用事例として、実際に、この制度がどのように活用されたのかを紹介します。

活用事例1
「知的財産権に関するポータルサイトサービス」
顧客からの質問に対し、用語解説等の一般的な内容について、AIチャットボットによって回答するサービスが弁理士法第75条が規定する「代理」行為に該当するか等の確認について、単に弁理士情報をWebサイトに掲載する行為及び顧客が希望する条件に該当する弁理士の一覧を提示する行為は、弁理士法第75条が規定する「代理」行為に該当しないと、下記の通り回答されています。
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/230622_yoshiki.pdf

活用事例2
「国の行政機関との契約における電子契約サービスの提供」
本サービスを用いた電子署名が、電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)第2条第1項に定める電子署名に該当し、これを引用する契約事務取扱規則第28条第3項に基づき、国の契約書にも利用が可能であることを確認したい、といった内容に対し、契約事務取扱規則第28条第3項に基づき、国の契約書が電磁的記録で作成されている場合の記名押印に代わるものとして、利用が可能であると下記の通り回答されています。
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/230421_yoshiki.pdf

グレーゾーン解消制度を活用することで、企業は法的な問題を解決し、さらなる成長を遂げることができます。その他にも多く事例が公表されていますので、下記を参考にしてみてください。
【グレーゾーン解消制度の活用事例、経済産業省HPより】
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/result/gray_zone.html

グレーゾーン解消制度の特徴

グレーゾーン解消制度の特徴として主に以下の3つがあります。
① 対象法令に制限はなく、あらゆる法令について、その適用の確認を求めることが可能。
② 個別の事業計画について、事業を規制する省庁から規制の適用の有無に関する回答を得ることができる。
③ 原則として、1か月以内に回答が得られる(1か月以内に回答できない場合には、その理由について1か月ごとに通知)。
「規制」には、法律・政令・省令・告示などの国のルールや、条例などの地方自治体のルールもあります。さらには業界自主規制や商慣習などもあるため、一口に規制と言っても、広く確認が必要にはなりますが、不明点について回答を得ることができ、安心して事業を始めることができるという点が大きなメリットです。

グレーゾーン解消制度の手続と利用の際の注意点

グレーゾーン解消制度では、事業計画を明確にした上で照会を求める照会書を提出し、これに対して行政から回答を得るという流れになりますが、以下では、その照会書の記載内容や、利用に際しての注意点を見ていきます。

照会書の記載事項

照会書は、正式には「新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定に係る照会書」とされており、記載する必要事項は以下の通りとなります。

  1. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の目標
  2. 新事業活動及びこれに関連する事業活動により生産性の向上又は新たな需要の獲得が見込まれる理由
  3. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の内容
  4. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の実施時期
  5. 解釈及び適用の有無の確認を求める規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定
  6. 具体的な確認事項並びに規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定の解釈及び当該規定の適用の有無についての見解
  7. その他

利用の際の注意点

グレーゾーン解消制度では、現行のあらゆる法令の規制について確認してくれるわけではありません。確認を求める事業者側において、確認を求める法令の条項や、問題となるポイントを具体的に特定した上で、照会書を提出しなければなりません。効果的な行政の回答を得るためにも、特にこの点については、注意が必要です。

類似の制度について

グレーゾーン解消制度以外にも産業競争力強化法では、「新事業特例制度」、「規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)」について定められています。

新事業特例制度

2014年にグレーゾーン解消制度と同時に創設された制度です。この新事業特例制度とは、事業に規制が適用されることを前提に、新事業に取り組む事業者が、特例措置を提案し、企業単位で規制の特例措置の適用を認める制度です。安全性等の確保が条件として課せられますが、特例措置により実施された事業により効果が実証されたのちには、特例措置を一般に適用して規制を緩和することになり、新事業がより発展することになります。

規制のサンドボックス制度

規制のサンドボックス制度とは、新技術等実証制度とも言い、現行規制との関係で実施が困難である新技術やビジネスモデルなどの社会的な実装に向けて、事業者の申請に基づいて、規制官庁の認定を受けた実証を行い、その実証により得られたデータ等を用いて、規制緩和等の見直しに繋げていく制度です。2018年に、生産性向上特別措置法に基づき制度が創設され、2021年、産業競争力強化法に移管・恒久化されました。最近では、よくニュースで、ロボットやブロックチェーン等の新たな技術の実用化や、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実証実験の話題が取り上げられているため、ご存じの方も多いと思います。
この制度は、現行の規制による制限を受けることなく、新技術等の迅速な実証を可能にするとともに、実証で得られたデータや情報等を活用可能にして、規制改革を推進する制度です。実証への参加者や期間の限定等によって、規制を回避した上で、有用なデータを取ることができ、技術革新を推進することが期待されます。

グレーゾーン解消制度のまとめ

グレーゾーン解消制度においては、新規事業の促進という本来の目的に沿わない申請については厳正な対応もあり得ますが、本制度は、規制の根拠となる法令が限定されていない点に利点があり、さらには、新事業特例制度や規制のサンドボックス制度につなげることによって、規制の緩和などに働きかけを行う事業所管省庁のサポートが受けられ、解決が望める制度です。自社の新規事業について、法令の適用の有無や解釈がわからない場合の確認には、グレーゾーン解消制度があると覚えておくとよいでしょう。ただし、確認を求める側で確認を求める法令の条項やそのポイントを具体的に特定した上で、照会をしなければならないため、弁護士や専門家を通して、問題点の整理をした上で、本制度を利用することをおすすめします。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、EC・通販法務には特に高い知見と経験を有しています。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

※本稿の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。EC企業からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行っている。
また、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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