適切なWebサービス終了のための利用規約の策定方法
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Webサービスとは、Webブラウザ上で利用できるインターネット上のサービスであり、SNSをはじめWebメール、Web会議システム、各種オンライン決済サービス、オンラインゲームなど、さまざまなサービスが挙げられます。この記事をご覧になっている方であれば、必ず何かしらのサービスを利用された経験があるのではないでしょうか。本稿では、Webサービスを提供する事業者が自社のWebサービスを終了させる場合に考えられる事態を想定し、適切な利用規約の策定方法や法律上の注意点などを解説します。
Webサービスの利用者と事業者の法律上の関係
Webサービスの終了という事態を想定するにあたり、まずはサービスの利用者とサービスを提供している事業者との法律上の関係について考えます。有料もしくは無料でWebサービスを提供している事業者と、そのサービスを利用している利用者との間には、継続的に提供されるサービスに対して対価を支払うという、「サービス利用契約」が成立しています。そして、その契約の内容を規定しているのが、事業者と利用者間の「利用規約」です。「利用規約」とは、そのWebサービスに関するサービス提供事業者と利用者の間の約束事を定めるものであり、もし、事業者が、事前に予告なくサービスを一方的に終了させた場合には、このサービス利用契約に反し、利用者に対しサービスを継続的に提供する義務があるのにも関わらず、それを怠ったとして、損害賠償など債務不履行に基づく責任を負わされるおそれがあります。
Webサービスは事業者の都合で一方的に終了させることが可能か?
Webサービスは、利用規約において中途解約の条項が設けられていれば、たとえ事業者側からの一方的な終了であっても中途解約が可能です。反対に、利用規約において、適切な中途解約条項が規定されていない場合には、事業者側からの一方的なサービス終了は、原則として出来ないということです。何事にも寿命があるように、永遠に提供しつづけられるサービスというものは考えられませんので、事業者による中途解約条項を利用規約の中に必ず定めておくようにしましょう。
利用規約にWebサービスの終了についての規定がない場合
利用規約を新たに策定する場合は、Webサービスの終了に関する規定を忘れずに入れておけばよいですが、もし、既にある利用規約にサービス終了についての定めがなく、契約期間についても規定されていない場合は、事業者の判断ではサービス利用契約を終了させることは全くできないのでしょうか。
Webサービス提供事業者と利用者との関係は、サービスを継続的に利用者に提供するという契約に基づく関係です。民法の原則に則ると、このような類型の契約を終了させるためには、サービス終了について利用者に事前に解約の申入れ、つまりサービス終了の案内をして、一定期間が過ぎればサービス利用契約の解約が認められると考えられます。具体的な期間については、事案ごとに事情が異なるため一概には言えませんが、サービス内容に応じて、2~6か月間ぐらいの間で設定するとよいでしょう。もちろん、利用規約を改訂し、中途解約条項についても規定することが望ましいことは言うまでもありません。
Webサービスを適切に終了させるための利用規約の規定
具体的に、どのような場合にどのような手続で、Webサービス利用契約を終了させることができるのかについては、事業者とサービス利用者との契約の内容次第となります。契約の詳細な内容は、利用規約により規定することが大半であると思いますので、利用規約に事業者の判断によりサービス利用契約を解約する、つまり、終了させることができる旨を記載しておくことが重要です。利用規約で上記の内容が適切に定められている場合には、その規定に基づいて、サービスを終了すればよいということになります。
具体的に、利用規約にどのような規定を置けばよいのかについてですが、一般的なものとしては、事業者は、いつでもサービスを終了することができるという規定があります。この規定に基づけば、提供後すぐにサービスを終了しても適法で、事業者は利用者に対して、債務不履行責任を負わないことになります。しかし、サービスの内容によっては、消費者の利益を不当に害する規定であるとして消費者契約法違反となり、その規定は無効とされてしまう可能性があります。
そのような事態を避けるためには、一定の期間が経過した後にサービスを終了するという規定にしておき、サービス終了にあたり、利用者にとって妥当であると考えられる期間を設けて、利用者に前もってアナウンスをし、代替のサービスを案内するなど、利用者に対してできる限りの配慮をしておく事が大切です。
また、規定が法的に有効であったとしても、特に有料のWebサービスが突然使えなくなりましたということになると、利用者からのクレームが多発する可能性がありますので、上記のように利用規約にサービス終了について明確かつ詳細に定め、その上で規約を運用することで、利用規約に則って、適切な手続を行っていますという説明ができます。
利用者から中途解約に伴う損害賠償請求はされないのか?
上記のとおり、利用規約を適切に定めたとしても、Webサービス終了により損害を被った利用者から損害賠償請求がされないのか不安に思われる方もいることでしょう。
第一に、利用者が事業者に対して債務不履行や不法行為に基づいて損害賠償請求をするには、事業者側に「故意または過失」がなければなりません。今回の場合は、「Webサービスを中途解約した」というだけであり、事業者には故意や過失はありません。しかし、利用規約に中途解約条項がないのにも関わらず、事業者が一方的かつ強引にサービスを終了させたというような状況であれば、「過失あり」と判断される可能性はあります。
第二に、利用規約において、「非保証条項」という、例えば、「本サービスが中止されないことについては約束できません」という旨があらかじめ定められているかがポイントとなります。非保証条項の規定により、永続的なサービス提供については保証していないということになるため、サービス終了を理由とする損害賠償請求は出来ないということになります。
このように、中途解約条項なり、非保証条項なりに従ってサービスを終了すれば、利用者からの損害賠償請求が発生することは基本的にはないと考えられますが、万一、何らかの理由により、損害賠償がなされたとしましょう。しかし、その場合でも、「損害賠償額の上限」について、あらかじめ利用規約に規定しておけば、損害の全額についての賠償という事態は免れます。例えば、「過去6か月間に当社が利用者から現実に受領した本Webサービスの利用料金の総額とする」というような損害賠償額の上限を設定しておきましょう。もし、このような上限規定が自社の利用規約にないのであれば、早急に利用規約の改訂が必要でしょう。
まとめ
利用規約の規定の内容次第で、Webサービス終了に伴うトラブルの結末が大きく異なる可能性があるため、事業者の方にとっては、適切な内容の利用規約を策定することが重要であるといえます。中途解約条項や、非保証、損害賠償額の上限規定を利用規約に記載することで、Webサービス終了に伴う法的なトラブルはあらかじめ発生しないようにしておき、さらに自社に対する信頼を損ねないために、終了までの猶予期間やサービス移行のサポートページを準備するなど、利用者に対する誠実な対応をすることが事業者として必要な準備であると言えるでしょう。利用規約上の条項を適切に整備しておくことの重要性を今一度、ご理解いただき、この機会に自社の利用規約を見直されてはいかがでしょうか。個別具体的な不明点がございましたら、お気軽にお問合せください。
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執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
※本稿の記載内容は、2023年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。